第7章 初任務と霞柱
「まァ……お前の考えを俺が全部奪う権利なんてねェからなァ。だがお前の考えや意思があるように、俺も俺の考えや意思があんだ。今回は俺が折れるから、約束だけは違えんな。これ以上……大切なモンなくしたくねェ」
「はい……ありがとう……ございます。実弥さん……」
涙で掠れた声に反応して風音を見下ろすと、ちょうど顔を上げた風音と目が合った。
まだ涙が溢れている瞳を見ていると何でも叶えてやりたく……
「これから……一緒に休める時は一緒のお布団で休みたい……です。駄目……かな?」
なっていたのだが、可愛らしい願いは実弥の理性を試すものだった。
「…………あぁ……。一応聞いてやる、俺が寝不足なってんの何でか分かってんのかァ?」
「私の体温が高くて寝苦しい……から?」
きっと風音が理解するのは実弥の頭の中の螺がぶっ飛んだ後だろう。
もういっその事、ぶっ飛ばした方が実弥の寝不足も悶々とした気持ちも全て解消されるはずである。
「本気でそう思ってるお前は最早天然記念物だわ。一緒に寝ても構わねェが、俺の我慢がはち切れてお前に何かしても拒むんじゃねェぞ。拒んだら一生寝てやんねェからなァ」
「天然記念物?うん!実弥さんにしてもらうことは何でも大好きだから拒まないよ!だからずっと一緒に休める!嬉しい!」
「風呂は一緒に入れねぇクセになァ」
風音しばし笑顔のまま逡巡……の後、実弥の胸元に顔を押し付けて清水の舞台から飛び降りる。
「帰ったら一緒に入る。そうしたら少しでも長い時間一緒に過ごせるから」
自分でけしかけたことなので後悔してももう遅い。
今日から実弥は毎日理性を試されることとなる。
「……そうだな……お前がこういうことに鈍感で無知で積極的なこと忘れてた俺が悪かった。クソ……帰ったら覚悟しとけよ、今まで耐えてた分全部分からせてやっからなァ」
再び顔を上げキョトンとする風音の頭を撫でて手を握ると、ソワソワわくわくして待っている柱たちの元へと戻っていった。
店主が驚くほどの怒声が響いたのは実弥と風音が席に座り、僅か数十秒後だった。