第7章 初任務と霞柱
「実弥さん……」
いつまでも険しい表情のまま言葉を返してくれない実弥を悲しげに見つめたあと、風音は息を大きく吸い込み意を決して言葉を発した。
大声で。
「私は実弥さんが大好きです!この世界の誰よりも愛しています!そんな実弥さんを悲しませたり苦しめることは絶対にしません!だから……」
壁越しに皿が割れる音や椅子が倒れる音が響いてきた。
どうやら中にいる柱全員に風音の言葉は全て筒抜けになっていたらしい。
しかしそれよりも目の前でしっかり自分を見据え大声を出したかと思うと、突如として悲しく表情を歪ませてしまった風音に意識の全てが持って行かれ、不思議と柱たちに聞かれた恥ずかしさなど感じる暇もなかった。
「放り出さないで……実弥さんの側に……」
それ以上言葉は出てこなかったが、涙を流すまいと必死に心の痛みに耐えているような風音の姿がやけに実弥の胸を締め付け、激しい怒りが抜け落ちていってしまった。
「泣かれたら心置きなく放り出してやれたのに……普通あんだけ言われりゃなくだろォ……はァ。悪かった、もう怒ってねぇし放り出さねぇから泣いちまえ」
「……泣いたらやっぱり放り出すって言わない?」
「テメェ……俺のこと何だと思って……」
冗談ぽく言われたので本当に泣かないつもりなのだと思ったのに、実弥の表情が和らいだのを見た瞬間、風音の瞳からぽろぽろと大粒の涙が流れ落ちていった。
自分がそうさせてしまったのだと後悔しながらも、声を出さず目をギュッと瞑って泣く姿が幼子のように頼りなく可愛らしく映り、壁に当てていた両手で細い肩を抱いて胸元へ押し付けた。
「結局泣いちまうのかよ……何でかなァ。お前を放り出しちまえば心配しねぇですむはずだってのに、きっと居なくなりゃあ、家ん中で風音の姿探しちまうんだろうなァ」
「……本当に……大好きなんです。大好きだから実弥さんを支えたいし、実弥さんに害を及ぼす鬼を滅ぼしたい……ワガママが過ぎてるって分かってるけど……」
恐る恐る実弥の背に回された腕はまだ震えており、泣いてしまった自分に実弥がいつ愛想を尽かし、この腕をいつ振り払われるのかと恐怖しているように映る。