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涼風の残響【鬼滅の刃】

第7章 初任務と霞柱


少女を片腕で抱きすくめているのに一切の隙も感じられず、先ほどのような言葉を吐こうものなら簡単に締め上げられ……下手をすれば関節を外されるかもしれない。

未来など見えなくても自分の行く末が予測できるほどの実弥の威圧感に男は押し黙った。

「だせぇ……男のクセに女にしか暴言吐けねぇとかクソだせぇな。もういいわ。風音、帰んぞ」

「うん……帰りたい。実弥さんのお家に帰りたい」

明らかに元気のない風音をヒョイと片腕で抱え上げると、本当にもう目の前の男やその息子に興味は尽きたと言わんばかりに二人に背を向けて歩き出した。

「あの!…… 風音!悪かった……君の母さんのことも、君のことも……あんなことしたのに俺の父さんを助けてくれて……感謝してる」

ここで別れてしまえば金輪際会うことは叶わない。
実弥の言葉や背中がそれを雄弁に語っていたので、青年は実弥の首元に顔を埋めている風音に言葉をかけた。

もちろんこんな事で全てが許されるなんて思っていないし、許されるべきではないと分かっているが、自分の父親を助けるために傷だらけになった風音に声を掛けずにはいられなかったのだ。

その気持ちを察してか実弥は振り返ることはしないものの立ち止まり、すぐ近くにある風音の髪に頬を擦り寄せた。

「何か言っとくなら今のうちだ。ここにはもう一生来ねぇからなァ」

「うん。分かった……」

実弥の首元からそろそろと頭を上げ青年の顔を見つめると、悲しく弱々しい顔を覗かせた。

「お母さんのことは……ずっと許せない。でも……貴方が私と同じ悲しみを感じなくてよかった……とは思ってる。どうかご両親と幸せに……ごめんなさい、もうこれ以上は」

涙を流す寸前で実弥の首元へと顔を戻したので、二人からは風音の表情は見えなくなった。

「もう十分だ。むしろもっと暴言吐いたってバチ当たんねェと思うけどなァ……お前がいいならそれでいい」

青年が風音の言葉に涙を流した一瞬後、実弥の姿は忽然と消え去り後には何も残ってはいなかった。
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