第7章 初任務と霞柱
村に辿り着き襖から解放されて気が大きくなったのか、男はこともあろうか命の恩人である風音を罵倒し始めた。
「鬼子!とっととこの村から出て行け!その髪も目も気色悪くてかなわん!お前だと分かっていれば助けてくれなど願わなかった!そもそもお前があの時化け物から逃げ出したから、俺がこんな目にあったんだ!」
騒ぎを聞き付けた男の息子が止めに入ろうが罵倒は止まらない。
よくもまぁここまで汚い言葉を思いつくものだと、言われている本人である風音も呆れるほどだ。
「お前を拾って育てるなど物好きもいたもんだな!名前なんて忘れたがあの野蛮な男だろう?全く、揃いも揃って鬼殺隊というのは得体の知れん気色悪い……?!」
自分に向けられる罵詈雑言など何とも思わなかった。
髪色も瞳の色も実弥や柱の皆は綺麗だと言ってくれているから、この男の言葉なんて右から左へと流れていた。
もう聞き飽きたので実弥の待ってくれている家に帰ろうとしていたのに、背を向けた時に放たれた言葉に無意識に反応し、気が付けば男をうつ伏せに押し倒し拘束していた。
「私のことは好きに言えばいいよ。でも……実弥さんや柱の人……鬼殺隊の全ての人のことを悪く言わないで!どうしてそんなことばっかり言うの?どうして……」
こんな男の前で涙など流したくないと目をギュッと瞑った瞬間、ふわりと体が浮き上がった。
初めは男に投げ飛ばされたのかとも思ったが、目の前にあるのは見慣れたはだけた隊服と大きな傷痕の残る胸元だったので、誰かなど考えるまでもなかった。
「もういい。こんなしょうもねぇ奴のためにお前が腹立てる必要なんてねぇだろォ。お前はここでちょっと大人しくしててくれ」
「実弥さん……どうしてここに?任務だったんじゃ……」
風音の疑問に今は答えるつもりはないのだろう。
実弥は風音の背をポンポンと優しく叩いてやると、男へと鋭い視線を向けた。
「誰がコイツに話し掛けていいって許可出したァ?前に言ったよなァ?コイツに用があんなら俺を通せってよォ!たった一年前のことも覚えてられねぇなら体に覚えさせてやろうかァ?!コイツに言ったみたいに俺の前でも同じ言葉吐いてみろや!」