第7章 初任務と霞柱
ここで鬼子と呼ばれていたと言ってしまえば、やはり後ろにいる男が騒ぎかねないと危惧し口を閉ざし日輪刀を構える。
「来ないならこっちから行きます!風の呼吸 伍ノ型 木枯らし颪」
いつまで経っても仕掛けてこない鬼に痺れを切らして技を放つと、鬼も大人しく頸を斬られてなるものかと血鬼術を放ってきた。
それは風音が遣う風の呼吸と同じく、風を刃のようにして切り裂くものだった。
互いに技を放っては肌に傷を作っていく。
そうなると風音ももちろん体力も気力も消耗されるが、そのどちらとも風音と比べ物にならぬほどに消耗されるのは鬼である。
「言ってなかったけど、私の血肉は鬼にとって毒なんだって。体、言うこと聞かなくなってきた……でしょ!」
鬼に切られ血が流れる腕を技が途切れた隙に振り払い、牽制し合っていた鬼へと頭から被らせた。
すると鬼は断末魔の叫び声を上げながら畳の上をのたうち回り、自分で仕掛けた風音でさえ眉を顰めるほどだ。
「鬼は嫌いだけど……苦しむ姿を見るのは好きになれない。生まれ変わったら、どうか鬼になんてなりませんように……」
鬼と言えどもがき苦しむ姿は風音の目の奥にツンとした痛みを走らせるので、これ以上苦しまないようにと日輪刀を静かに上から下へと振り下ろして幕を下ろした。
「終わった……では私は帰ります。他に鬼がいると楓ちゃんからの知らせもありませんし、後は好きに村に戻って下さい……傷薬は一応置いておきますので」
「待ってくれ!腕を食い破られた痛みでまともに歩けそうにない!良ければ村まで一緒に……」
なんて都合がいいのだろう。
人の母親を鬼に情け容赦なく差し出し殺した癖に、自分は腕を噛まれたくらいで歩けないと言う。
「はぁ……構わないけど騒ぎ出した時点で放って……あ!少し後ろを向いて下さい!」
「?分かった。こうでいいか?」
「うん、じゃあおやすみなさい」
トンと頸椎を手刀で叩き、夢の中へと旅立っていただいた。
「これで静かに怪我の手当ても出来るし襖の上に乗せて運べるし一石二鳥だ。目を覚ます前に早く済ませよう」
放っておきたい気持ちを抑え、風音は手早く手当てを終わらせ……言葉通り襖の上に男を寝かせると見つけた紐で括り付け、その紐を引っ張って山を下った。