第7章 初任務と霞柱
「今は鬼に集中、鬼に集中……あんな人でも生きていて欲しいって願ってる人がいる。鬼殺隊は鬼による悲しみや痛みの連鎖を断ち切る組織。……助けなきゃ」
自分に言い聞かせるように言葉を紡いでは心を落ち着け、かつて自分も贄として運ばれた屋敷へと到着した。
当時も薄気味悪く気分の悪くなる場所であったが、あれから数ヶ月放置されていたからかより一層薄気味悪さが増している。
「鬼は私の匂いを嫌うから慎重に行動しないと」
風音は膝より少し上まであるブーツの編み上げ紐をギュッと縛り直し、いい思い出のない引き戸をそっと開けて中を覗き込む。
特に物音はせず安心していたが、突如として男性のものと思われる悲鳴と物が壊れる音が響いた。
「いる……複雑な気持ちだけど生きてて!」
もう足音を気にする余裕などない。
悲鳴が聞こえたということは男性が鬼に襲われ始めたということだから……
引き摺られた思い出のある廊下を全力で駆け、声と物音が響いてくる部屋に続く襖を切り捨てると、目の前に広がっていたのはあの男性が鬼に腕を噛まれているところだった。
「動かないで!風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐!」
牽制の意味も込めて体を捻るようにしながら下から上に斬り上げ、男性から鬼を離す。
頸も一緒に斬れてしまえばよかったのだが、実弥ほどの力量がない風音では腕の一本を落とすことがやっとだった。
それでも当初の目的であった鬼から男性を引き離すということは出来たので、すかさず間に滑り込んで男性を背に庇う。
「そのまま動かないで。警告はしましたよ」
「あ、あぁ!分かった。分かったから助けてくれ!あの化け物をどうにかしてくれ!」
どうやら声だけでは風音が誰か分からないらしい。
気付かれても嬉しくはないし、何ならぎゃあぎゃあと騒ぎ出しそうなので放置することに決めた。
「さて、私は君を倒しに来ました。匂い……キツイでしょ?外に出る?私も外の方が動きやすいから嬉しいのだけど」
「ぐっ……お前本当に人間か?」
じりじりと後退しながら発した鬼の言葉に思わず溜め息が漏れる。
あの山でも最終選別でも散々鬼から言われた言葉だからだ。
「一応人間してます。一部の人からは不名誉な呼び名で呼ばれていたけどね」