第7章 初任務と霞柱
「楓ちゃん、ここが私が育って実弥さんから連れ出してもらった村だよー。別にいいんだけどさ、見て?私の住んでた家が既に取り壊されてる。お母さんとの思い出の場所もないし、さっそく鬼の住処に行こー」
目が死んでいる。
腕に抱かれている楓が心配になるほどに目が死んでおり、ちらほら姿が見える村人に一切関心を示していない。
「……ソウデスネ。早ク終ワラセテ帰リマショウ。不死川様ガ待ッテマスヨ」
「うん!ありがとう、元気出てきた。今は鬼を倒すことに集中しなきゃね。私と楓ちゃんにとっての初任務、一緒に」
頑張ろうねと言おうとした言葉は手を強く引かれたことにより途切れさせられた。
こんな時に……と思いながらも無視は出来ないので、引っ張ってきた者を振り返って確認する。
「何でしょうか?貴方のお相手をしている余裕はありませんよ?」
「助けてくれ!父さんが化け物に攫われたんだ!早く助けてくれないと殺されてしまう!」
手を掴むはこの村を去る少し前に押し倒してきた青年だった。
しかもこの青年の親は、これでもかと痛めつけて来た男である。
よりにもよって攫われたのが最後まで自分を罵倒した人間だとは……
つまり風音からすれば母親を死に追いやったに等しい人間を助けなくてはならないのだ。
「私は鬼を倒すためにここに来たので攫われた人は救い出します。でも……生贄に差し出した女性の娘である私に助けてもらう気分はどうですか?」
ニコリと口元だけで笑い、顔が良く見えるように一歩歩みよると手を掴んでいた青年の表情が固まった。
誰がここに来たのか分かったのだろう。
「そろそろ手を離して下さい。それともまた私を押し倒しますか?そうすれば貴方の大切な方の命が失われますよ?こうしている時間も勿体ない……離して!」
驚き固まり続け手を握っていた青年を振り払い、もう用はないと言うように風音は楓を空へ放ち山へと駆け出した。
残された青年は地面に膝を付き項垂れる。
「……あの子……俺らが除け者にしてた子じゃないか。鬼子だと蔑んでたのに……父さんを助けてくれるのか?……すまない」
小さな謝罪はもちろん風音には届かないし、いくら後悔しても蔑み母親を死に追いやった過去は何もなかったことにならない。
悲しみ憤りを滲ませていた少女の瞳は青年の胸に激しい痛みをもたらした。