第7章 初任務と霞柱
あれから数時間。
風音は実弥に言われた通り、精神を削るであろう明日の任務のために居間で体を休めていた。
縁側の障子を開け放ち、藤の花の香りに包まれ楓を胸に抱きながら。
空には月がまだ高い位置にあり、夜明けまでは遠い時間。
「……こんな所で寝てんのかよ。しょうがねェなァ」
難しい顔をして眠っている姿を見つけたのは任務を終えて帰宅した実弥。
その実弥は一度部屋を出て寝る支度を済ませてから戻り、風音の布団の中に潜り込んで縮こまってすっぽり楓を胸におさめている体を抱き寄せた。
「帰った」
「……ん、実弥さん。お帰りなさい。お迎え……出来なくてすみません」
まだ夢現なようで実弥を映す瞳は半分しか見えておらず、しかし嬉しそうに柔らかく綻んでいる。
「迎えなんていちいち必要ねェよ。明日の任務、やれそうかァ?」
低く風音の鼓膜を心地よく刺激する声に反応して実弥へとモゾモゾ体を動かし、深呼吸を一つ。
「うん、大丈夫。お母さんのことは許せないし思うところはあるけど、あそこの村には小さな子供もいるから鬼は倒さないと。それに実弥さんはどんな時も必ず警備や任務に行くでしょ?私は実弥さんみたいに人を助けるために命をかけるような、優しい人になりたい」
「別に優しかねェだろ。……何言われても聞く耳持つなァ。前みたいに押し倒されそうになりゃされるがままにされんな。技でもかけて関節の一つでも外してやれ」
いつもなら物騒な言葉に冷や冷やしていたかもしれないが、自分を想い場を和まそうとしてくれている雰囲気が出ているので、思わず笑いが零れた。
「私、実弥さんに教えてもらった技ならかけられるけど、関節の外し方分からないから出来ないよ。でも大丈夫、何かされかけても反対に拘束することは出来るようになってるから。明日……実弥さんの継子として課せられた任務を完遂してきます。ここで待っていてください」
「……待っててやるから無事に帰って来い。全部な」
「フフッ、身も心も無事に帰ってきます。実弥さんが待っててくれたらどんなことも苦じゃないから」
結局居間で身を寄せ合いながら眠りにつき、夕刻に風音と共に屋敷を後にした。
余談であるが、出かける数時間前に風音は実弥から間接の外し方を教わったとかなんとか。