第7章 初任務と霞柱
それから風音は楓と、どこからともなくやって来た爽籟をそれぞれ肩の上に乗せ羽毛に包まれながら夕飯の支度を着々と済ませ、少しぎこちないながらも笑顔で三人で食卓を囲んだ。
しかしながら楽しい時間は一瞬で過ぎ去ってしまうもの。
夕日が沈む頃、明日の初任務を労ってくれた小芭内に藤の木と隊服を持って来てくれた礼を告げると、大した事は無いと笑顔で自分の任務に赴いて行った。
そうすると次は実弥の出立の時間となる。
(少し寂しいな。ちゃんと帰ってきてくれるかな?怪我……しないかな)
玄関で草履を履く実弥の後ろ姿がやけに恋しくなり、褒められた行為ではないと分かりながらもその背中にふわりと身を寄せた。
「……帰ったら聞いてやるし甘えさせてやる。出来るだけ早く戻るから楓と留守番しててくれ、いいなァ?」
首元で緩く交差させた腕に実弥の温かい手が添えられた。
それだけなのに嬉しくて幸せで……胸の中がチクリと痛み、涙が流れそうになった。
「嬉しい。でも無理はしないで。朝まででも待ってるから無事に帰って来てね。楓ちゃんと一緒に実弥さんと爽籟君の無事を祈り待ってるから……」
静かな夜風を思わせる声は実弥の胸を締め付け、堪らず振り返って細い体を腕の中におさめた。
「帰ったら起こしてやるから、お前は明日に備えてちっとは休んどけ。うたた寝でも構わねェ……分かったな?」
「うん。実弥さん、どうかお気を付けて。今日の鬼は動きを鈍らせようとしてくるから、その術を解くために腕を切る前に右に避けて変な水をかぶらないようにして下さい」
こんな時にも実弥の先を見て危険を回避させようとする風音を強く抱き締め、出立する前に温かさを……と体をピタリと寄り添わせる。
「俺相手にも無闇矢鱈と使うんじゃねェ。痛みを感じちまうんだからよォ……頼むから無理してくれんな」
「無理はしてないよ。なんかね、最近コツが掴めてきたの。もう少しで感覚共有を切り離せそう。また……時間ある時に聞いて下さい」
初耳。
色々言ってやりたいことも聞きたいこともあるが、もう出立しなければ被害者が出てしまうかもしれないので諦めた。
「帰ったら聞かせろ。はァ……じゃあ行ってくる」
「はい。実弥さん、爽籟君。行ってらっしゃいませ」
体を離すと笑顔で風音の頭をくしゃりと撫でてから屋敷を出ていった。