第7章 初任務と霞柱
羽織を何故取り上げたのだろうと疑問に思うも、背を撫でてくれている力が僅かに強くなったので聞かないことにした。
そうして待つこと数分、ほんの少し膨れたままの風音が居間へと戻り、膨れているクセにしっかりと実弥の隣りに腰を下ろす。
「お待たせしました。夜ご飯を作るので、よければ伊黒さんも……いひゃい!実弥さん、いひゃいです!」
「いつまでも不貞腐れてんなァ。そんな顔で晩飯誘われても嬉しかねェだろうが」
「い、いや。俺は構わない。それより不死川、そろそろやめてやれ。涙目になっているぞ」
風音は両頬を実弥に強めに摘まれウニウニと全方向に動かされるものだから、あちこちに頬が引っ張られて涙を浮かべている。
こんな光景を初めて見る楓は口を……嘴をあんぐり開けて呆然だ。
「もう不貞腐れてねェなら解放してやらァ。おい、まだ何か俺に不満あんのかァ?」
「ない!ないです!ごめんなさいもう拗ねてません!」
痛みから開放されるために実弥の手を引っ張るが、摘んでいる指を離してくれないので痛みが増すばかり。
しばらくこのままにしてやろうかと考えていた実弥も、風音の頬に涙が流れてしまいそうな気配を感じてようやく解放してやった。
「痛い……ほっぺた痛い」
「いつまでも不貞腐れてるからだろうが。ったく、せっかくなら似合ってる羽織の方がいいだろォ」
本人たちは至って真面目な遣り取りをしているつもりなのだろうが、小芭内から見ればじゃれ合っているようにしか見えない。
しかも似合っていると言われた風音が、先ほどまでの膨れっ面が嘘だったかのように満面の笑みになったので、もはや惚気られているようにすら感じる。
「お前たちは仲がいいのだな。夕餉の誘いは嬉しいのだが、楓とやらの話を聞かなくていいのか?任務を伝えに来たと言っていただろう?」
「え?!楓ちゃん?……あ!実弥さんの向こう側に座ってたんだね!任務、届けてくれたの?今日からさっそく任務かしら?」
縦寸のある実弥に隠れていた楓を見つけると、風音は小さな体をふわりと抱き上げて自分の足の上に座らせてやった。
どうやら楓もやはり風音の側が一番好きらしく、ホッと息をついてお届けに来た任務の詳細を伝えた。