第7章 初任務と霞柱
部屋へと気に入りの羽織を持っていくことさえ許されず、実弥の言葉第一な風音としては珍しく、膨れっ面で居間を後にして自分の部屋へと下がって行った。
「変わらずえらく懐かれているな。それほどまでにその羽織がいいのならば、部屋にくらい持って行かせてやっても良かったのではないのか?」
「あの不満顔……後で絶対つねり倒してやる。伊黒、アイツは隙あらばこの羽織を着ていくつもりだぞ?こんなふざけた羽織死んでも羽織らせねェ。クソが……そもそもキュロットだったかァ?あれも短過ぎやしねぇかァ?」
次から次へと風音や風音の隊服について不満が出てくる。
キュロットを着用している少女剣士も中にはいるので、れっきとした隊服に違いないのだが、膝より少し上の丈に設定されているのが気に食わないらしい。
「お前……存外心配性だったんだな。まぁ……丈が短くて心配なのは分からんでもないが……」
実弥は風音を、小芭内は蜜璃の隊服姿を思い浮かべては溜め息を零した。
「はァ……これ以上言って臍曲げられても堪ったもんじゃねェから言わねェけどよ。それよりもこれでアイツにいつ任務がきてもおかしくねェ状況だ。なんつったっけなァ、確か楓だったか?任務だって今日明日に……ん?楓……お前は風音にそっくりだなァ……」
噂をしていれば楓がいつの間にか実弥の隣りにちょこんと座っていた。
ここに来てから風音の様子を見ていたからだろうか…… 風音が居なければ実弥の隣りが正しい場所だと認識しているようである。
「風音サンがイツモココニ座ッテルノデ……ツイ。アノ、風音サンハドコデショウ?任務ヲお届ケニ来タノデスガ」
来てしまった。
羽織の件で少し拗ねている風音に任務が。
「早ェな。アイツは今着替えてんだが……今日任務あんのかァ?」
「イイエ、明日ノ夕刻頃ニココヲ出マス。今日カラ明日ノ出発マデハ体ヲ休メテイテモラオウト早メニ赴キマシタ」
何とも律儀な鎹鴉だ。
初任務だからしっかり準備を整えてもらおうと思っての行動だろう。
「そうかィ。んならここで待ってろ。もうすぐ不貞腐れたお前の相棒が帰ってくるだろうからなァ」
「……不貞腐レテ?」
「不死川が柊木の気に入りの羽織を取り上げてしまったから、少し悲しんでいるだけだ」