第6章 贈り物と日輪刀
「……貸せ、俺が開ける」
実弥が風音の手から再び横取りした理由……前田が悲壮な表情で予備の風呂敷を開けようとしていた風音を見ていたからだ。
……そして実弥の両頬は血管が更に侵食する。
「あぁ……同じ作りの隊服……あれ?実弥さん、見て下さい!隊服はともかく羽織りが入ってますよ!実弥さんとお揃いの羽織かもしれません!さっそく……『コロ』って染め入れられてる。『殺』の訓読みだけど……ワンちゃんの名前みたい」
揃いかもしれないと喜んでいた風音ションボリ。
その表情がまた実弥の前田への怒りを助長させてしまい、激しい叱責が再び開始されてしまった。
風音としては隊服はともかくとして、羽織は実弥と揃いだと思えば揃いなので変に愛着が湧いてくる。
任務に赴くのは遅れてしまうが作り直してもらえば問題ないので、実弥の怒りをおさめるべく二人の間に割って入ろうとして……いつのまにかそこに小芭内の姿がありビクついた。
「不死川、柊木が困っている。こういう奴の懲らしめ方は心得ているので俺に任せてあっちで落ち着いて来い。柊木、不死川を頼むぞ」
「あ、はい!伊黒さん、どうか……お手柔らかに。実弥さんが落ち着いたら皆でお茶にしましょうね!では実弥さんを少しお借りします」
頷き返してくれた小芭内にぺこりと頭を下げると、風音はまだ怒り狂いその場から離れたがらない実弥をどうにか引っ張り玄関が見えない位置まで移動した。
「まだ終わってねェ!お前は腹立たねェのかァ?!あんな人を馬鹿にしたような隊服渡されてよォ!何で怒んねぇんだよ……」
「私が怒らなくても実弥さんが怒ってくれたから、私はそれだけでもう十分だよ。ありがとう、私のことで怒ってくれて。でももう怒らないで?実弥さんもいい気分にならないと思うし、疲れちゃうでしょ?」
本当に怒っていないようだ。
何なら大切そうに『コロ』と正しく人を馬鹿にしたような羽織を抱えているので笑えたものではない。
本人が気に入っていたとしても流石にこの羽織は着せられないと、実弥はその羽織をそっと風音の腕から自分の腕に移動させ、何の前触れもなく風音へと口付けをした。