第6章 贈り物と日輪刀
「お前は相変わらず自信ねェなァ。力のことはとっくに知ってるし、瞳も髪も綺麗でいいじゃねェか。俺は全て知った上でカミさんになってくれって言ってんだ。まァ……答えを今すぐ言えって言ってねェんだし、考えてからでも……」
胸元が濡れていく感覚があった。
何を考え何を思って涙を流しているのかハッキリとまではいかないものの、自分に言われたことが悲しく嫌で泣いているのではないと分かる。
嫌だったならばしがみつく力が強まるはずがないからだ。
「すぐ泣いちまうなァ。そんな泣いてばっかだと干からびちまうぞ」
「だって……こんな幸せなことって夢でもない限りあるなんて思ってなかったから。えっと……」
胸元からひょこっと上げられた顔は柔らかく綻び、嬉しそうに頬は薄い紅色に染まっている。
それを見ただけで風音が実弥に言おうとしていることが分かる。
「喜んで!私を実弥さんのお嫁さんにしてください!ねぇ、実弥さん。もう少し強くギュッてしてほしい。本当に夢じゃないって教えてほしい」
「忙しいヤツ。心配しなくても夢じゃねェって。ほら、これでいいかァ?」
背に回した腕の力を強めると更に風音の表情が綻び、その表情に実弥はホッと息をついた。
「うん!夢じゃなかった。はぁ……幸せだぁ。当分は思い出してニヤけてしまいそう。隊服が届いて任務に行くとしても、任務中にニヤける自信しかないや」
今の表情を見ていると本気でニヤけたまま任務に赴いてしまいそうだ。
自分が望んでいるのはもちろんだが、生き残らせる意味も込めて言った言葉で風音が殉職してしまうなど考えただけで実弥の背中がヒヤリとしてしまう。
「緩みきってんじゃねェぞ。死んじまったら嫁になるもクソもねェんだからなァ。怪我も良くなったことだ、明日からそのニヤけ面に緊張感取り戻させてやらァ。お望み通り俺と同じ鍛錬を課してやる、嬉しいだろ?」
「嬉しいことは嬉しいけど、今の嬉しさとはちょっと違う……でもお父さんをどうにかしなきゃだし、明日からよろしくお願いします。約束通り音は上げませんので!」
緩みきった表情からキリッとしたので、今言った言葉に嘘はないのだろう。