第6章 贈り物と日輪刀
「え?帰ってしまったの?え?!お礼ちゃんと言えてないのに!ちょっと追い掛けてくる!実弥さん、お茶ちょっと待っててね?」
驚き振り返って玄関へ向かおうとする風音の腕を引っ張り止めると、そのまま胸元へと抱え込んだ。
「もうここらにはいねぇよ。今度会った時にでも礼を言やぁいい。で……お前は俺の継子でいいんだなァ?」
「え、あ……はい。どうしたの?私は実弥さんの継子になることしか考えてなかったのだけど……」
実弥にとっては嬉しい言葉だが、風音が最終選別から戻った時から頭に過っていたこと、そして一人の柱が言っていたことを思い出して抱き寄せる腕の力を強める。
「お前は細ぇし薬を調合出来る。細ぇ奴なりの戦い方を身に付けるなら俺より胡蝶が適任だ。それになァ、藤の木のことで顔合わせた時に胡蝶から直々に言われた。俺がお前を継子にしねェ、もしくは本人が望むなら自分の継子として歓迎するってなァ」
しのぶは小柄で体の線が細いため、柱の中で唯一鬼の頸を斬れない。
その代わりとして努力し身に付けた薬学の知識を生かし、鬼を死に至らしめる毒を瞬時に頭の中で弾き出して鞘の中で調合、討伐に貢献している。
しのぶほど小柄ではないものの線が細く、しのぶと同様努力して薬に関しての知識を身に付けている風音はしのぶのお眼鏡にかなったのだ。
実弥からすればここまで育て懐いている風音を手放す気はさらさらなかったのだが、本人がしのぶに教えを請いたいと言うならば無理矢理引き留めることが出来ないと判断した故の言葉である。
どう返事が返ってくるのか……柄にもなく固唾を飲んで待っていると、風音はモゾモゾと手を動かして背に回した。
「私は実弥さんの継子です。胡蝶さんはもちろん大好きですし、医療・薬学に長けておられるので尊敬もしています。でも私は実弥さんじゃなきゃダメなんです。私は実弥さんの継子として実弥さんに教えを請いたいですし、実弥さんの元で成長したいです」
実弥が師範なのだと主張するように紡がれた敬語は今までモヤモヤしていた敬語と違い、不思議と安堵と喜びを実弥にもたらした。