第6章 贈り物と日輪刀
後ろに隠したままだった手を実弥の前に翳し、自分用の栞を差し出してきた。
それは台紙の色だけ違う、葉の色も形もそっくりな栞だった。
後から出してきたということは、実弥に受け取って貰えなかった場合はこっそり部屋に持ち帰るつもりだったのだろう……
元々よっぽどのことがない限り受け取ろうと思っていた実弥だが、受け取らなかった場合の心で静かに涙を流すであろう風音を想像して冷汗を背中に伝わせた。
「ん……あぁ。栞作るってことは本読んだりするのか?字書いたりとかも出来んのか?」
嬉しそうに自分で作った揃いの栞を手にお行儀良く正座した風音の隣りに座り問い掛けると、間髪なく返事が返ってきた。
「うん。あの村で一人で生活し出してからは本を買う余裕がなかったというかなんと言うか……でも読み書き計算は一通り両親に教えてもらったから出来るかな?字と言えば!実弥さんの地図分かりやすくて驚いてたの!実弥さんと爽籟君から貰った初めてのお手紙なので、ここに大切に……あれ?!ない!ちょっと探して……」
「おいコラ、テメェ。傷もまともに塞がってねェのに出歩くなよ。……手紙って言うか地図ならさっきそこに落っこちてたから、鞄の中入れといた」
危うく縁側から飛び出しそうだった風音の頭を掴んで止め、そのまま鞄の方にクリッと動かしてやった。
ここからだと実弥から風音の表情は見えないものの、明らかにホッとしたように肩が下がったので落ち着きを取り戻したと分かる。
「よかった……何を置いてもお手紙が大切だから……せっかく描いてくれたのに落としてごめんなさい」
シュンと項垂れているが実弥としてはただ道に迷わないようにと描いて渡したただの地図だ。
既にないものとしか考えていなかった……と言うよりも存在自体を忘れていたので落としたことに対して落胆などしていない。
「手紙ってなァ……てか謝ることねェよ。文字も書いてなかったろ?何で手紙って認識してんだ?」
未だに畳に視線を落としたままの風音の体を自分に向き直らせると、ようやく顔を上げて見上げてきた。