第2章 柱
突然言い当てられたことに内心驚いていた。
村では畏まった話し方をする者はいない。
年上の人に対してほんの少し丁寧に話したりはするが、旧家や華族のように言葉遣いに頓着していないからだ。
「どうしよう。助けてもらった人に……村の外の人には丁寧に話しなさいって両親に教えられたけど。いいの?」
その問い掛けは独り言として部屋に響くだけで、機嫌良く指で薬草入りの袋を弄びながら風呂へ向かう実弥の耳には届いていない。
「……分からない。それにあのこと……言った方がいいのかな?」
何やら懸念事項がある様子な風音は一度静止した後、風呂敷から手拭いを取り出してゴシゴシと顔を拭う。
昨夜から勝手に施されていた化粧が不快で仕方なかったのだろう。
そして簪やら髪飾りやらで結い上げられていた髪も振りほどき、手ぐしである程度解してから後ろでお団子に結い上げ、作りおいていた薬や乾燥させていた薬草を確認した。
「鬼殺隊は鬼を倒すのがお仕事なら傷薬とか化膿止め、麻酔とか解毒剤……が役に立つ?少しでも役に立たないと。置いてもらうなら何か有益なものを作らないと」
部屋に人は誰もいない。
人は……である。
風音の小さな声を拾ったのは実弥と共に任務を遂行している鎹鴉の爽籟。
鎹鴉とは晴れて鬼殺隊に入隊した際に本部から与えられる相棒のようなものだ。
爽籟は音もなく部屋から飛び立ち実弥が向かった風呂場へとふわりと羽を動かすと、浴槽に薬湯袋を入れ体を解している実弥の視界に入った。
「爽籟、どうしたァ?お前、風呂あんま好きじゃなかったろ?」
「…… 風音ヲドウスルツモリダ?スグに放り出すナラ、今日ニデモ離セ!心ヲ壊スナ」
酷い言われようだ。
そもそも自分から屋敷に来いと言ったのに、すぐに放り出すはずがない。
「お前は俺を鬼だと思ってんのかァ?薬作んの好きなら胡蝶のとこって思ったが、あそこは人が多いだろォ。行きたいとこが見つかるまで放り出しゃしねぇよ。それに」
実弥には小さな袋の中にどんな薬草が入っているのか分からない。
それでも香りがよく、心做しか体の疲れがいつもより取れるように感じる薬湯に身を深く沈みこませた。
「あいつは常中が使えんだァ。無理に引き入れるつもりもないが、本人が望むなら鬼殺隊に入れて俺が育てる。強くなる見込みがあるからなァ」