第2章 柱
瞼に光が差し込み実弥が目を覚ました。
どうやら朝まで座ったまま眠ってしまったらしく体はガチガチに固まっている。
それをほぐそうと体を動かすと……胸元から視線を感じた。
そちらへ恐る恐る視線を巡らせると、翡翠石のような大きく綺麗な瞳が実弥を見上げていた。
「……言っとくが一切如何わしいことはしてねぇぞ。起きてんなら降りろ」
降りろ……と言われても風音も風音で動けない事情があるようで、実弥の胸元の隊服を握りそこへ視線を落とした。
「何やってんだァ?俺はお前の母ちゃんじゃねェ。男を簡単に信用すんな、襲われんぞ」
「それは……そうなのだけど、不死川さんの手が」
「ぁん?手?俺の手が……どうした」
風音から自分の手へと視線を持っていくと、離れろと言ったくせにまるで何かから守るようにしっかり風音の体を抱き締めていた。
「あ"ぁ"……悪ぃ」
手の力を緩め解放すると風音は素早く実弥から離れ、昨日村人から取り返してくれたものが入っている風呂敷をゴソゴソと漁り出す。
何をしているのかと疑問に思ったのは一瞬で、風音は乳鉢と乳棒、乾燥させていた薬草を取り出しては寝起きとは思えない速度ですり潰し、小さな袋へと流し込んでいく。
(薬作る速度すげェ……確か母ちゃんが薬作ってたっぽいこと言ってたなァ。鬼みたいな成ってことは異国の薬師かなんかか?……それより父ちゃんだ、俺と面識ある奴?常中使えんならそれなりの剣士だったはずだがなァ)
考えれば考えるほど特殊な生い立ちで実弥ではいくら考えても答えは見つからず、せっせと薬草をすり潰しては袋に入れる風音を眺めることにした。
「なァ、何の薬作ってんだァ?傷あんなら用意してやるからそれ塗っとけよ」
「お風呂に入れるお薬です!不死川さん、鬼退治とか私の世話で疲れてるでしょう?少しでも疲れが取れるようにって……取れるようにと思いまして」
ようやく完成したのか、小さな袋の口をキュッと紐で縛り実弥へ手渡した。
匂いを嗅いでみると薬草だけでなく、柑橘や生姜の匂いが実弥の鼻腔をくすぐる。
「器用なもんだなぁ、あんがとよ。で……お前、敬語慣れてねぇだろォ?自分の家で敬語で話されっと落ち着かねェから、村で使ってた言葉遣いで頼むわ。んじゃっ、先に風呂入ってくる」