第6章 贈り物と日輪刀
敬語が入りまじるたどたどしい話し方や真っ赤に染まる顔。
身も心もズタズタに傷付いた少女の真っ直ぐで逸らされることのない翡翠色の瞳に、徐々に実弥の胸の中に罪悪感が生じてくる。
「目ェ……逸らさねぇのかよ?」
「逸らしませ……逸らさないよ。私をからかっているわけじゃないから。恥ずかしいけど、あまり何かを望まない実弥さんが真剣に私に望んでくれているから……それに応えたい」
こんな時に何を風音に望んでいるのか……望むならせめて心の傷が癒えた時に望めばよかったものを、と後悔しても既に遅い。
(らしくねェ……家ん中にコイツの姿あるってだけでこうなっちまうのかよ……)
細められた実弥の目から後悔を感じ取った風音は、両手で実弥の頬を包み込み目に緩やかな弧を描かせた。
「もっと望んでほしい。確かにまだ心は痛いけど、実弥さんが私に願ってくれると傷が埋まっていくの。それくらい私にとって実弥さんは大きな存在なんだよ?実弥さんのことが大好きだってもっともっと伝わればいいのに」
嫌というほど伝わっている……
よくもまぁここまで相手に好きだと伝えられるものだと呆れるほどに実弥には伝わっている。
座っていればいつの間にか側に座っているし、どれだけ稽古で怒鳴られ扱かれても拗ねることすらなく、稽古が終われば駆け寄ってきては反省点を述べて手を握り笑顔で家の中へ引っ張り歩く。
普段はそれに上手く応えられず……好きなように望むままさせてやっているのだ。
「これでもかってほど伝わってるわ……俺はどうしてやればお前が喜ぶのか未だに分かんねェ。何しても喜ぶから難しいんだよ……」
降参だというように風音の後頭部に当てていた手の力を弱め、細くすぐに壊れてしまいそうな肩にポスンと頭を預けた。
「何をしてもらっても嬉しいから喜んでるんだよ?こうして頭を預けてくれることも、苦しくて悲しくてどうしようもない時に抱き寄せてくれることも嬉しい。怒ったらちょっと怖いけど」
「怖ぇのかよ。はァ……まぁいいわ」
何を言っても喜ぶ風音には適わないと諦め、実弥は立ち上がって縁側へと続く障子の前まで歩き障子へと手を掛ける。
「約束してたの覚えてるかァ?無事に帰った祝いにいいもんやるよ」
ポカンとしていた風音は、開け放たれた障子の向こう側の光景に息を呑んだ。