第5章 試験と最終選別
丁重に弔ってもらえる。
お館様の面影を感じさせる幼子が言ってくれたことが、風音の心をほんの少し軽くしてくれた。
「どうか……よろしくお願いいたします。あの、ご存知であればこの子のお名前を教えていただけませんか?……聞きそびれてしまって」
「その方は柊木様と同じ風の呼吸の遣い手の、柏葉 花様です。とても明るく優しい女性だと育手の方から伺っていました」
「風の呼吸……柏葉 花ちゃん。ありがとうございます。育手の方のお言葉通り、明るくて優しい子でした。どうか……この子をよろしくお願いいたします」
幼子が風音に頷き返すと、どこからともなく黒子のような人が数人現れ、慎重に花を風音から引き取って瞬く間に山を下って行った。
それからは事務的に日輪刀の元となる玉鋼なる鉱物を選び隊服を支給してもらい、最後に爽籟の好敵手となり得る風音の相棒、鎹鴉を賜った。
「初めまして、私は柊木風音。貴方のお名前は?」
肩に降り立った鎹鴉に頬を擦り寄せながら問うと、嬉しいことに体をピタリと頬に寄り添わせて答えてくれた。
「初メマシテ、私……鎹鴉トシテ初メテノお勤メナノデ、名前ハマダナイノ。風音サンニ付ケテ貰イタイノダケド……」
初耳だった。
鎹鴉として初のお勤めの場合、名前はまだ与えられていないらしい。
突然の名付け要望に頭を悩ませたが、可愛らしい鴉にピッタリ且つ自分と関連付く名前を思いついた。
「楓ちゃん……はどうかな?私は風の呼吸を使うから、風が入った名前。私の苗字に木の文字もあるからお揃いみたいな感じで……嫌?」
「楓……オ揃イ嬉シイ!コレカラヨロシクお願イシマス!」
人生初の名付けは成功したようだ。
未だにスリスリと頬に体を寄せ続ける楓に心を温かくしてもらった風音は、疲れの癒えぬ体を動かして家路を急ぐ。
傷だらけの体を見た実弥の反応に戦々恐々としながら。