第5章 試験と最終選別
「こんなことって……もう!何なのよ!」
気が付けば刀で鬼の頸を斬り落としていた。
仲良くなりたいと初めて自分から歩み寄った少女を殺した鬼など、苦しんで死んでしまえばいいと思った。
のたうち回る姿を見て少しでも気が晴れると思っていたのに、風音の心は痛みと言い表しようのない虚無感だけが残ってしまった。
消えゆく憎いはずの鬼の様子を虚ろな目で眺めたあと、風音は後ろに横たわっている少女の前に跪き瞼を閉じさせてやると、両手を合わせて祈りを捧げた。
「お名前……聞けなかった。私はね、柊木風音って言うの。貴女と……お友達になりたかった。間に合わなくて……ごめんなさい」
どんなに声を掛けても返事があるわけもなく、可愛らしくこちらまで笑顔になるような明るい笑顔になることもない。
その現実が悲しいはずなのに……何故か涙が流れてこなかった。
「私って薄情な人間だったのかな……とりあえず、鬼にこれ以上襲われない場所に移動しよっか。藤の花が咲いてるところまで送るから……そこで待っててね。選別が終わったら必ず迎えに行くから」
人とはこんなにも重かったのか。
なくなってしまった命と比例して重くなるのか……そんなことをぼんやりと考えながら山の中腹まで戻り、懸命に生きて戦い散ってしまった少女を藤の花の下で休ませてやった。
あれからほぼ一日が経過した。
どのようにあそこから戻ったのか、夜を迎えてどう動いたのか朧気にしか思い出せないが、体にある数多の傷を見ると無茶をして鬼を倒していたのだと何となく理解した。
「もうすぐお日様が昇る。迎えに行ってあげないと」
心身共に疲弊しながらもどうにか重い体を引き摺って少女が休んでいる場所まで戻って背負い、最終選別の開始の合図が出されたところへ戻ってきた。
そこには開始前と同じく二人の良く似た幼子が待機しており、事切れてしまった少女を背負った風音の姿を確認すると、黒い髪の幼子がすかさず走り寄ってきて風音の背中を撫でてくれた。
「お疲れ様でございました。そちらの方は私共が責任を持って丁重に弔わせて頂きます。どうか柊木様、体を休めてお待ちください」