第5章 試験と最終選別
やはり魚は釣っておいてくれるらしい。
風音のために魚をとここまで言ってくれる少女の思いを無下に出来るはずもなく、風音も笑顔で頷き返す。
そうして選別で各々が成すべきことを成すため、二人は二日後に再び会うことを心の拠り所として別れ鬼の討伐に戻っていった。
「名前、聞いておけばよかったな。でもあと少しで会える。もう空が明るくなり始めたから、そろそろ待ち合わせ場所に向かわないと」
あれから二日間、特に天気が大きく崩れることもなく、他の受験者の亡骸を見ることもなく順調に鬼を討伐していた。
そして今日は心の拠り所としていた、殺伐とした毎日を過ごしたご褒美とも言える待ちに待った日だ。
もう太陽が顔を出し始めているので鬼は暗闇へと姿を消して夜に備えるのだと確信すると、風音は鞘へと刀を戻し心做しか足取り軽く待ち合わせ場所へと向かう。
「まだ……来てない?夜明け頃って言ってたし、私も自分の食べ物持ってきておこうかな。急いで取りに帰ら……ないと」
自分の荷物を置いている場所へ一度戻ろうと体の方向を変えた瞬間、生々しい嫌な音が風音の鼓膜を刺激した。
見てはいけない
本能的に脳が警鐘を鳴らしたが、何故だか見なくてはいけない気がしてそちらへと視線を移す。
木々により朝日の遮られた薄暗い場所。
横たわる人とその前に蹲って手を伸ばす異形の生き物。
「嘘……鬼が人を……うっ……風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!」
せり上がってきたものを押し戻し即座に技を出して鬼を攻撃するも、動揺から手元が狂って頸を落とし損ねてしまった。
それでもどうにか足を斬り落としたので、それが再生するまでの僅かな時間で襲われていた人と鬼の間に滑り込み刀を構え直す。
容態はどうか……ほんの少し首を後ろに向けて顔色を確認し、風音の動きがそこで完全に止まった。
「どうして……だって、今から一緒にご飯……食べようって」
鬼に襲われ横たわっていたのは、二日前に約束を交わした少女だった。