第5章 試験と最終選別
傷の痛みが和らいできた四日目。
可能な限り他の受験者と深い接触は避け、初日のような深手を負うことなく折り返しの日を迎えた。
広大な山だというのも要因の一つに違いないだろうが、幸いにも受験者の無残な亡骸を見ることもしていない。
「誰も亡くなってなければいいけど……あの女の子は無事なのかな?あれから一度も会ってないや。ご飯もちゃんと食べれてると……」
「あ!やっと見つけた!待って、ちゃんとお礼が言いたくて!」
噂をすれば何とやら。
会いたいと考えていた少女が前方から元気に手を振って走り寄ってきていた。
願ってもない再会に風音も数日ぶりに笑顔を取り戻し、目の前で立ち止まった少女の手を握って涙を滲ませる。
「お礼なんて……でも元気そうでよかったです!傷はどう?痛くない?」
「あの時の傷はバッチリ治ったよ!あの傷薬すごいね!効き目すごくてビックリしちゃった。あの、その時のお礼と言っちゃなんだけど……夕暮れ前にお魚釣れてね、もう焼いちゃってるけど一緒に食べない?」
何とも性根逞しい少女だ。
明け方から昼間までならばまだしも、鬼が動き出す直前の時刻に釣りをしていたらしい。
しかも魚を見事に釣り上げ調理まで終わらせているという。
風音としても保存食ばかりだったので焼き魚のお誘いはとてつもなく嬉しいものだが、それこそ命懸けで釣り上げた魚をおいそれといただくわけにはいかない。
「そんな貴重なもの貰えない!私は保存食まだ沢山あるし、それは貴女が食べて?私は……その……嫌でなければ少しの時間だけでもご飯一緒に食べさせて貰えたらそれだけで嬉しい……です」
同じ歳の頃の友達と言えば実弥を通して知り合った蜜璃がいてくれている。
しかし誰の紹介もなく同じ歳の頃の少女と共にご飯を食べたことのない風音は、今までしたことがなかった自分から歩み寄り仲良くなる……というのを挑戦してみたかったのだ。
そんなことなど露ほどにも知らない少女は風音の申し出に嬉しそうに笑顔を深めて頷いた。
「もちろん!じゃあ二日後の明け方、ここで待ち合わせね。今日だと貴女も遠慮しちゃうみたいだし、明後日に最終日に備えてたくさんお魚釣っておくから一緒に食べよ!」