第5章 試験と最終選別
藤の花の香りが立ちこめる山道を登り続けてしばらくすると、先ほど道ですれ違った受験者たちが数人待機している開けた場所へと到着した。
「三十人……いるかいないかくらい?鬼はどれくらい閉じ込められているんだろう。選別って言うくらいだから私たちより多い……のかな」
少なければ受験者が早々に倒して選別が終わってしまう。
一週間これだけの人数が鬼を狩り続けるのだから、鬼の数は受験者の倍などという易しい数でもないはずだ。
(怖い……実弥さんは稀血なのにこの最終選別を乗り越えたんだ。……実弥さんのことだから、他の受験者の人たちもたくさん助けたんだろうな。うん、私も出来る限りやれることをやってみよう)
そうして気合いを新たにした風音は髪を後ろでお団子に結い上げ、最終選別が開始されるまで静かに時を過ごした。
開始の合図を行ったのは産屋敷邸でお館様に寄り添っていた白い髪の綺麗な幼子と、その幼子にそっくりの黒髪の綺麗な幼子だった。
そんな幼子たちから最終選別の説明を受け、現在は朝日が当たりやすく開けた比較的安全な場所を探して山の中を走っているのだが……
「鬼が……逃げていくんだけども。鬼に寄られても嬉しくないけど、鼻と口を押さえて逃げられたら複雑……」
何度か鬼の姿を確認し柄へと手を動かしたその瞬間に、鬼は目を見開いて口と鼻を手で覆い逃げ出してしまう。
先に荷物を安全な場所にと考えていたが何度か鬼から同じ対応をされた風音は、立ち止まって刀を抜き鬼の気配を実弥を真似て探ってみた。
「私から離れた鬼が……数体他の人のところに行ってる。倒しに行かないと」
本来は自分に襲いかかってきていたであろう鬼を倒すべく、気配がした方角へと足を動かし……その姿を見つけた。
三体の鬼が一人の受験者に群がっており、既に手傷を負わされているように見える。
自分の特殊な血のせいで……と悲しんでいる暇はない。
走りながら実弥に叩き込まれた構えを取って息を大きく吸い込んだ。
「伏せて下さい!」
鬼の醜い言葉ばかりを耳にしていた受験者は風音の大声に反射的に地面に伏せた。
それを確認すると刀を一気に振り下ろす。
「風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風」