第5章 試験と最終選別
実弥に書いてもらった地図を頼りに藤襲山の近くまでやってきた。
ちらほらと同年代か少し年下の少年少女たちが緊張の面持ちで歩いている姿が風音の視界に映り出し、自然と風音の緊張も高まっていく。
「選別が始まったと同時に全集中の呼吸の発動。私は基本的に鬼から疎まれるから、休息できる場所を確保次第すぐに鬼の捜索と討伐。可能な限り他の受験者の人の援護をして……無事に帰らないと」
緊張していては思うように動けないと、それを解すために実弥から貰った地図に視線を落とす。
文字の一切書き込まれていない地図は不思議とすごく分かりやすく、丁寧に民家まで絵で記されていた。
「絵、上手だったんだ。全部訂正なく描かれていて……あら?」
今まで表しか見ていなかったので気が付かなかったが、裏面に何か柔らかな物に墨をつけて掠ったような痕がある。
しばし首を傾げながら歩いていると、ふと風音の顔に笑みが浮かび宝物を抱くように胸に地図をあてがった。
「爽籟君が羽でつけてくれた痕……実弥さんと爽籟君の気持ちのこもった素敵なお手紙だ。初めて二人からもらったお手紙、大切にしないと」
保存食やら応急手当一式が詰め込まれた鞄に入れていた手拭いを取りだし、地図兼お手紙を皺にならないよう綺麗に折りたたんで手拭いで包み鞄の中に戻すと、風音はいつの間にか辿り着いていた目的地の山の麓で立ち止まる。
「本当に藤の花が中腹から麓まで満開。私からすればお薬の宝庫だけど……季節外れなのにここまで満開だと少し怖いな」
周りに受験者がいると言っても皆が皆緊張と恐怖を胸に燻らせているので、風音の小さな呟きに耳を傾けるものはいないし……もちろん答えてくれる人もいない。
「皆……合格すればいいのに。誰も死なずに最終選別が終われば、誰も悲しまずに過ごせるのに……どうにか私の血を使って全員助けられないかな?」
実弥を始めとして柱が聞けば叱責するであろう言葉をボソリと呟いた後、風音は深呼吸で気持ちを整え山へと足を踏み入れた。