第5章 試験と最終選別
まさか蜜璃まで駆け付けてくれているとは思っておらず、姿を見た時は驚いたものの久方ぶりの再会に喜んだ。
その後、明日の最終選別を受けるつもりだと報告すると事前に事情を知っているしのぶと、しのぶから事情を余すことなく聞いていた二人からは心配げに眉をひそめられてしまった。
今現在、怪我を負っていることに加え鬼殺隊に入ると他の剣士より自らの命を危険晒すことに繋がるのに……と。
しかしそれは実弥の言葉で消え去る。
「俺が放り出したところでコイツは勝手に最終選別受けるつもりだ。放り出して早々に死なすより、俺が見張ってた方がどうにかなんだろ」
一同が目を見張ったものの永遠と風音を縛り続け見張ることなど不可能なので、危険はあるが実弥に風音の命は託されたのだ。
ちなみに風音が天元の先を見て笑顔になった理由は
『警備に赴いた街に住み着いている猫の親子に懐かれ、行く先々に現れてはついて回られていた』
かららしい。
まだ本人から本当に猫に懐かれたのかは聞けていないので、今のところ真偽は定かではない。
「では実弥さん、行ってきます!お腹の傷は塞がってますし、きっと大丈夫です!傷薬も包帯も保存食も持ちました!準備万端です!」
見繕ってもらった袴を身に纏い、まるで遠足にでも行くような晴れ晴れとした笑顔で言われた実弥はガクリと肩を落とす。
「お前なァ……もう少しくらい緊張感持っていけよ。俺らなら楽勝な鬼でも、お前らからすればギリギリ勝てるか勝てねぇかの強さの鬼だぞ?……指の1本でも落としてきてみやがれ、放り出してやるからなァ」
緊張感の欠片もない風音に緊張感を取り戻させるべく頭を鷲掴みにすると、途端に眉が下がり涙を目に滲ませた。
「これでも緊張はしているんです。私は特筆して強いわけでも才能があるわけでもありませんから。笑顔で実弥さんと別れて……笑顔で帰ってきます」
せめて今だけでも笑顔で……と気丈に振舞っていた風音の腕を引いて胸元におさめ、頭の上に顔を乗せてしっかりと抱き締めた。
「待っててやるから帰ってこい。帰って来たらいいもんやるからよォ。楽しみにしとけ」
何を貰えるのか分からないがきっと自分が喜ぶものだと確信した風音は、実弥を抱き締め返してから笑顔で不死川邸から藤襲山へと旅立っていった。