第5章 試験と最終選別
血を流していれば風音は基本的に襲われない。
確かにそれでは最終選別で鬼から遠巻きに様子を伺われるだけで一週間が過ぎ去るだろう。
戦い生き残ることを前提とした選別でそれでは意味がないように思えるが…… 風音が大人しく鬼と睨めっこをして終わらせるはずがない。
「既に傷は痒みがあるので完治しかけてると思います。それに例え鬼に嫌煙されようと私が自ら鬼を探して接触します。私がいることによってほかの受験者の人に負担を掛けたくないですから」
どうやら鬼から探し当てられる前に果敢にも捜索して頸を斬りに行くらしい。
そよ風を紡ぎ出すと言えど風の呼吸を使うだけの気性は持ち合わせているということだ。
「いや……あぁ……怪我してんのに最終選別受けたいなんて言う奴聞いたことねェわ。で、分かってると思うけどよォ、他の受験者の先を無闇矢鱈と見ようとすんな。お前の力のことが広がっちまうとお前に危害が及ぶ可能性出てくんぞ」
「こんな使い勝手の悪い力なのに?あ、そっか。私が使えば私が痛い思いするだけだもんね……分かりました!可能な限り使わないようにします、今日みたいなことあってもダメですし!今日と言えば!天元さんと胡蝶さんに改めてお礼言わないと!さっそく……すみません。実弥さん、目が怒っていらっしゃいます」
怪我をしていることを忘れ実弥の足の上から勢いよく立ち上がろうとした風音を、実弥は一応怪我のことを考慮して鋭い視線だけで止めさせた。
「本っ当に今自分で言ったこと全部分かってんだろうなァ?!馬鹿みてェに動き回って傷口開いたら最終選別行かせねェぞ!ちっとは落ち着くってことを先に覚えたらどうだァ?!」
風音しょんぼり。
だからといってしょんぼりして落ち込み続ける人間ならば実弥の弟子なんて務まる訳もなく、すぐに持ち直して実弥にキュッと身を寄せた。
「これでも傷口の応急処置は心得てるのでご心配には及びません!でもこれ以上実弥さんに心配を掛けるのはしのびないので、ゆっくり歩いていこうと思います。実弥さん、ここで天元さんと胡蝶さんが待ってくださってるならお部屋を教えてください」
分かってるような分かっていないような発言をする風音に溜め息を零し、実弥は抱えて立ち上がらせてやり本当にゆっくりと…… 風音の手を引き三人が待つ部屋へ向かった。