第5章 試験と最終選別
父親が人を襲っていると確信を得てから、鬼殺隊に入ることを尚強く願った少女が簡単にそれを諦めるなんて考えられない。
かと言って好きにさせていればいつかと言わず、近いうちに命を落とすことは確実である。
どう説明してどうさせてやればいいのかなど実弥ですら分からないので、しのぶも分かりはしない。
言い表しようのないこの部屋の空気を破ったのは、まだまだ眠り続けると思われていた風音だった。
ゆっくりと瞼を開いて枕元にいる実弥に手を伸ばし、膝の上で固く握られている手の上に重ね合わせた。
「……実弥さん、胡蝶さん。お手間を取らせてしまってすみませんでした。私……もしかしなくても、お腹に傷があり……ますよね?なんだか痛いような痒いような感覚が……」
呑気に浴衣の中を覗こうとしたが、以前に男がいる前で着替えるなと実弥に怒られたことを思い出してその手を襟元の上に置いて二人の顔を交互に見つめる。
その二人の表情から自分が今から言われる言葉を察し、実弥と重ね合わせている手に視線を落とした。
「風音ちゃん、不死川さんとしっかりお話をしてこれからどうするのか考えて下さい。どうしてお腹に傷があるのか……貴女ならもう分かっていると思いますので。私は…… 風音ちゃんには穏やかに過ごして欲しいと思っています」
先ほど実弥に話した通り、しのぶは鬼殺隊に入るどころか関わるべきではないと結論を出して風音に告げる。
しかし風音は実弥の弟子なのでこれ以上口を出すことはせず、涙を瞳に溜めた風音の頭を撫でて部屋を後にした。
部屋に残された実弥は重ね合わせられた小刻みに震える手を握り返してやり、今にも零れ落ちそうな涙を拭った。
「俺も胡蝶と同じ意見なのは分かってるなァ?鬼殺隊に入れば俺や柱以外にも死なせたくねェって奴が出来る。そんな奴が増えれば増えるほど、お前の命は危うくなっちまう」
五年以上一人で生きてきた少女にとって実弥の言葉は深く胸を抉り、激しい痛みを伴うものだった。
どうにか孤独を耐え抜いて生き延び、これからたくさんの同じ目的を持つ大切な人と共に生きていこうとしていたのに、大切な人を作るなと言われているようなものだからだ。