第5章 試験と最終選別
しのぶの言葉に実弥の顔から血の気がサッと引いた。
頭に流れ込んだ実弥の未来が止まらなくなった時、風音は
『お腹を怪我する』
と言っていた。
「今日の任務で俺が……腹に怪我するっつってた。ちょっと待て、感覚を共有しちまうだけだってコイツ言ってたろ?何で同じ場所に……」
「……そうでしたか。私もこんな能力を持った子の処置は初めてなので詳しく分かりません。ですが……深くはないものの不死川さんが傷を負ったであろう場所と同じ場所に裂傷がありました。共有から来る痛みもあったでしょうけど、実際に傷があるのでその痛みもあったはずです。本人すら気付いてはいないと思いますが」
実弥は言葉を失った。
目の前で眠り続ける風音の表情からも、天元の先を見た時の表情からも苦痛は感じられなかった。
それでも腹に怪我を負っていたのは包帯に滲む血から事実だと嫌でも実弥に突き付ける。
「幸いにも傷があったのはお腹だけです。不死川さんのことですから腕やらを切っていたでしょうけど……恐らくある一定の許容量を超える怪我に関してのみ、実際に風音ちゃんにも影響を及ぼすものと考えられます」
「んだよそれ……そんなこと、コイツ一切言ってなかったじゃねェか。見てェって思ってたわけでもなく勝手に見えちまっただけだろ。鬼殺隊なんかにいたら死んじまうじゃねェか」
今は勝手に未来が見えたのは実弥だけである。
ただ……『今は』の話だ。
本人の希望通り鬼殺隊に入り柱や剣士たちと関係性が深くなれば、その者たちの未来が今日のように勝手に流れ込み傷を負う可能性が高い。
しのぶもそれを分かっているのだろう。
風音の浴衣を整えてやると、悲しげに視線を手元に落とした。
「最悪の結果が起こらないとは言えません。むしろ今の状態だとそうなる可能性の方が高いでしょう。私は……この子は鬼殺隊に関わるべきではないと思います。可能ならば不死川さんのお屋敷で穏やかに過ごすのが……一番ではと」
「言い聞かせて聞くような奴じゃねェんだよ……それこそ一日中縛り付けてでもしとかねぇと、勝手に最終選別に行って勝手に鬼殺隊入っちまうような奴だ」