第5章 試験と最終選別
「行きます。明日のために……五日間も実弥さんに付き合ってもらったので……あ、ご飯作らなきゃ!不思議!眠気飛んで」
ゴチン
ピョコっと起き上がると鈍い音と共に風音の額に激しめの痛みが走り、今まで体の痛みと戦っていた風音にとってそれなりの衝撃だったようで……涙目だ。
「寝とけっつってんだろうがァ。子供じゃねェんだから飯ぐらい自分で用意出来るわ」
「う……はい。すみません、実弥さん、天元さん。おやすみ……なさい」
実際のところ眠気が飛んでいっていたわけではなかったのだろう。
痛みを感じながらも、実弥が引っつけたままにしてくれている額や体に広がる温かさが心地よく、フワフワと瞳を揺らした後に眠りについた。
「えぇ……何か可哀想。よくそんなことして嬢ちゃんお前んとこから逃げ出さねぇな。ひよこみてぇなのにどんな根性してんだ?」
額を赤くして痛みに眉を寄せているのに実弥の襟元を握り締めており、その強さから離れてなるものかと強い意志が感じ取れる。
「コイツの思考回路は未だに分かんねェよ。ただ俺の稽古を泣き言吐かずこなすくらいだァ……そこらの剣士よりは肝座ってやがるだろうよ」
肝の座っている風音の見た目は金の髪や翡翠石のような瞳以外、特に普通の女子と変わらない。
普通のと言っても未来が見えたり薬を調合出来たり、幼い頃に教えてもらった呼吸法を薬を作り続けるために自分のモノとし……何より父親が元鬼殺隊剣士の今は下弦の鬼という異色の経歴を持つ少女だ。
そんじゃそこらの精神力ではないのは確かである。
「なるほどねぇ。そりゃあ育て甲斐あるし不死川と言えど可愛がるわな。取り敢えず行こうぜ、胡蝶呼んでんだろ?」
「うるせェ。お前に言われっと何か腹立つわ……けど、助かった。どうしてやればいいか分かんねェ状況だったんでなァ。コイツ落ち着けてやってくれたのは……その、感謝してる」
尻すぼみに小さくなった言葉を言い終えると、実弥はフイと前を向いて先に走り出した。
しかしその動きは疲れ眠ってしまった風音を起こしてしまわないようにと、静かで優しいものに天元には映った。
「いいなぁ!派手に面白いじゃねぇか!」
天元にからかわれた実弥が血管を破裂させないことを祈るばかりである。