第5章 試験と最終選別
本来ならば蝶屋敷へと風音を連れて赴くべきだったのだろう。
呼びつけるなどしたくなかったが、自分が触れてしまうと永遠と任務終了までの様子が風音の頭の中に流れ続け苦痛を味わってしまうと思うと触れられなかった。
「どうすればいい……どうすれば止まってくれんだよ!」
「だ……いじょうぶ。実弥さんが応急処置を施したので、幾分か痛みが……和らぎました。ふぅ……実弥さん、次の鬼は血鬼術が使えないみたいです。でも……」
どうやっても止まらない。
腹を鬼に切られたのならば痛みは相当なもののはずだ。
額には脂汗が滲み瞳は涙で覆われてしまっている。
「喋んなっつってるだろうがァ!……クソ、待ってても埒が明かねェ。胡蝶と鉢合わせるまで運んでやるから、少し辛抱してろ。辛けりゃ俺の腕噛んどけ」
「か、噛みませんよ。そんなの……鬼みたいで怖い。鬼になりたくない」
「なるわけねぇだろうが!移動中に舌噛む方が怖ぇだろ!……あぁ!クソ、これ口ん中入れとけ!」
鬼となってしまった父親を昨晩目にしたからだろう……実弥の申し出を頑なに断り体を硬直させた風音の頬を掴み口を開けさせると、近くにあった小ぶりの手拭いを中に詰め込んだ。
「むぐ……っふ」
もう何も話せないし、これならば移動時の振動で舌を噛む心配もない。
風音も少し苦しさを感じるが、実弥を噛むくらいならば手拭いを口に入れていた方が気持ちが楽なのか、強ばった体の力を抜いて実弥の首に腕を廻した。
「痛ぇなら我慢せず暴れて構わねェ……動くぞ?」
「ふぁい」
すぐに話そうとする風音には手拭いを口に入れるくらいがちょうどよかったのかもしれない。
何かを訴えようとする風音に気付かないふりをして抱き上げ門の外まで出たところで、風音の体がビクリと震えた。
「こんな時に限って怪我多過ぎんだろォ!ちょっと待ってろ、すぐに胡蝶に」
「不死川、ちょっと待て!嬢ちゃんに俺の未来を見せてみろ!俺、今日は警備しかねぇから!」
聞き覚えのある声が背後からしたので、焦り険しい表情になった顔で振り返ると……そこには天元が隊服姿で走りよってくる姿があった。
「何でここに宇髄が……」