第5章 試験と最終選別
さすがに体を寄せられると目が覚めたらしく、風音は機嫌よく顔と体を実弥に向けて冷えた体を温かさにうずめた。
「冷てェなァ……風邪引いたら最終選別もクソもねェだろうが。ったく、お前はどうすれば危機感持ってくれんだよ……俺の精神力試してんのかァ?」
「危機感は全力で持ってますよ!でも実弥さんの前だと緩んじゃうんですよね。怒ってもこうしてあっためてくれますし、優し過ぎて私の精神が緩々にふやけちゃうんです。だから実弥さんも精神緩々にしてください!見てみたい!」
胸元からひょこっと緩々に緩んだ締りのない顔を出す風音は危機感など全くない。
本人が緩々なのはいいとして、実弥が精神を緩々にしてしまっては色々大変なことになってしまう。
村の若者に拘束されても実弥に押し倒されてもキョトンもするような少女だ、実弥が頭の螺をぶっ飛ばせば何も知らない無知な少女にトラウマを植え付けてしまいかねないだろう。
「俺が緩々なって理性なくすわけにいかねェだろうが。見てみたいなんて軽々しく言ってんじゃねェ」
何故か目が血走っている。
血管が浮き出ていないので怒ってはいなさそうだが、何かを堪えている実弥に風音はこてんと首を傾げた。
「理性がなくなったらダメなんですか?実弥さんはいつも誰かのために生きてるから、たまには我慢をしないことも大切……だと……思うんですけど実弥さん!お顔近い!恥ずかしいです!」
「我慢しねェでいいんなら……これくらい耐えてもらわねェとなァ」
頻繁ではないもののたまに口付けをしてくれるのでそれはそれで嬉しいのだが、何の前触れもなく顔を近付けられ……それこそ目と鼻の先で止められたら風音の顔は真っ赤である。
「耐えるも……何も嬉しいのですが……っ?!」
これだけ近ければさすがの風音も何をされるのか分かっていたが、思っていたものと違い頭の中が沸騰寸前の混乱状態に陥ってしまった。
どうすればいいのか分からず実弥を見つめてから逸らし、頭がフワフワする感覚に身を委ねてみることにした……ようだ。
瞼を閉じまるで意識を保たせるかのように実弥の道着の襟元をキュッと掴んだ。
(舌入れただけでこうなっちまうのかよ……)