第5章 試験と最終選別
課題一日目と同じく実弥が若干の寝不足に陥り稽古後に仮眠を一人とって……いたはずなのに、気配を感じて目を覚ましてみれば隣りで風音がスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
(ふざけんなァ!何でテメェも一緒に寝て……好きなことしろって言ったの俺だったわ)
ちなみに風音は好きなことをして構わないと言われたから一緒に寝たわけではなく、縁側で日向ぼっこして眠りに落ちた実弥があまりに気持ち良さそうだったので、風音もつられてお昼寝をしてしまっただけである。
そんな事実は実弥からすれば問題ではなく、無防備に自分の隣りで眠りこける少女の存在そのものが問題なのだ。
(危機感が全く育たねェなァ!もう十七を目前にしてるってェのにこんなんで大丈夫か?口開いてるしよォ……)
締りのない危機感皆無の風音を見ていると、明日から始まる最終選別で生き残れるのか不安に思えてくる。
さすがに鬼が闊歩する夜の山の中で寝ることはないだろうが、今の顔を見ていると藤の花を余すことなく体に巻き付けていた方がいいのでは?とさえ思えてしまう。
そんな風音の口に実弥が人差し指を少し入れてみても起きる気配はなく、何だったら少しニヤけだしたように見えるので実弥は溜め息を零した。
「いやいや、起きろよ。……っ?!?!噛みやがった……おい、俺の指は食いもんじゃねェぞ。起きてるなら……起きてねェ」
噛まれたといっても甘噛みでガシガシと噛んでいるだけなので痛みはない。
しかし指を噛み続けられると複雑な気持ちになるし、とてもとてもいけないことをしている気分になってしまう。
「どんな夢見れば人の指噛み続けんだよ。……そのうち本気で噛まれそうでこっちは気が気でないんだがなァ」
「んーー、かたい……」
柱として刀を日夜握っている指が柔らかいはずがない。
どうやらその硬さがお気に召さなかったようで、ぷいと顔を背けてようやく実弥の指を解放した。
「勝手に噛んだと思えば不満言うのかよ。はァ…… 風音、そろそろ起きろ。こんなとこで寝てたら風邪引いちまうぞ」
眠り続けている体を自分の体に寄せると、日に当たっていたとはいえ風に晒されていたからか道着から出ている手や腕が少し冷たくなっている。
「……あれ、実弥さん。おはようございます。フフッ、とても温かくて気持ちいい」