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涼風の残響【鬼滅の刃】

第2章 柱


若者たちは狂気すら感じさせる実弥の険しい笑みに体を固まらせ、その指示に従うしか出来なかった。

それを確認した実弥は背負っていた風呂敷から着物を二着引っ張り出し、その内の一着を風音に手渡した。

「そんな格好で移動出来ねぇからこれ着とけ。村の奴のんだから、移動中に破れても問題ねぇだろォ」

この着物をどうやって村人から授かったのか……想像に容易い事はさておき、風音は着物を握りしめて逡巡する。
着物を羽織りつつ首を傾げる実弥を後目に、風音は若者たちが立ち尽くす所へと静かに移動して、脱がされてしまった制服を手に実弥の前へと戻った。

「あいつらが触ったモンなんて放っておけ。嫌なこと思い出すだろ」

「ううん、私はこれがいいです。家族以外で初めて優しくしてくれた不死川さんの制服……大切にしたい」

綻んだ表情と声音からは温かさが感じ取れ、実弥は小さく笑って乱れに乱れた風音の頭をくしゃりと撫でる。

「そうかィ、お前がいいならそれ羽織っとけ……ってちゃんと前閉めろよ!走ってたら隊服が翻って意味なくなるだろうがァ!」

既に制服……鬼殺隊の隊服を羽織ってはいたものの、本当に羽織っていただけで袖すら通しておらずもちろん釦も閉めてはいなかったので、ポカンと二人の遣り取りを見続ける若者たちの前で叱られてしまった。

「すみません……少し待っててください。こういったものは慣れてなくて……着るのに時間が」

西洋の文化が浸透しつつあると言えど、都心部から離れたこうした村で洋服を着るものはいない。
例に漏れずその一人である風音は四つしかない釦を閉めるのに手間取り、どこをどう間違えたのか掛け間違いを起こしては戸惑っていた。

「だァア、もういい!お前は大人しくじっとしてろォ!ったく、世話のかかる奴だなァ!」

荒々しい言葉とは裏腹に大人しくしている風音に対する手つきは優しく、まるで妹の世話をする兄のように釦を一つづつ閉めてやっている。

「ほら、行くぞォ。……よく見りゃぶかぶかじゃねぇか。ま、お前がいいならそれでいいけどよォ……お前、常中出来るなら走れ。どんなもんか見てやる」

「あ、はい。足手纏いにならないようにしますね」

そうして漸く若者たちの前から二人は風のように消え去って行った。
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