第2章 柱
「おォい、てめぇら今から俺の言うことのみを実行しろ。しねぇと……頭が地面に転がんぞォ」
突然聞こえたのは今は村内にいるはずの実弥の声。
手を離せ、後ろに下がれ、そこから一歩たりとも動くな。
次々と実弥から若者たちに与えられる指示は風音の体から拘束をなくし、不快感も瞬く間に取り除いて、代わりに優しい温もりで包まれふわりと体が浮かび上がった。
「体触られる以上のことはされてねぇかァ?」
「特に何も……叩かれたり切りつけられたりはなかったです。あの、私は何をされるところでしたか?」
年頃の女子から出たとは思えない質問に実弥は風音を胸の中におさめながら目を見開き、大人しくジッとしている頭を見下ろした。
「嘘だろォ……何って……一つしかねぇじゃねぇかァ。まぁ……知らねぇなら知らねぇ方がいい。俺が触れても不快感はないな?」
「全くないです。失礼かもしれないけど、不死川さんの温かさが少し心地良いくらい」
呑気に言ってのける風音に脱力した実弥はとりあえず刀を鞘へおさめ、表情を険しくして若者たちを威嚇する。
「こいつが無知で命拾いしたなァ。トラウマ植え付けてたら指の一本くれぇ転がしてやろうかと思ってたところだ。追い付けるはずもねぇけど、後付けてくんな。それから今後一切こいつに近付くんじゃねぇぞ」