第5章 試験と最終選別
せっかく見付けた父親を……下弦の鬼を逃がしてしまう。
大量の鬼を排出出来るならば反対のことも出来るはず。
そうなれば自分が父親の頸を落とす落とさない以前の問題で、再び取り逃がして被害者を多く出してしまうことに繋がるのだ。
今は名前が呼び水となって自我を取り戻しているようだが、今まで記憶をなくし人を多く喰らっている鬼が再び自我を失うなど容易いだろう。
例え自我を保ち続けたとしても……何かしらの方法で強制的に記憶を抹消される可能性も考えられる。
「……構えだけは解くんじゃねェぞ!俺が全て一掃してやらァ!巻き添え食わねぇように下がっとけェ!」
風音の技で雑魚鬼の相手をさせて自分が障子をどうにかするより、多少荒々しくなったとしても全てを薙ぎ払った方が早いと判断した実弥は、風音が返事をする前に躍り出て技を放った。
巻き起こる風は髪をふわりと舞い上がらせるなどという可愛い物ではなく、髪など全て後ろに流され足をしっかり踏ん張っていなければ体は吹き飛ばされるだろうと思えるくらいの強風である。
目を開けることすらやっとな状況で、頸を斬られ塵として消えゆく鬼たちの背後に目をやって障子と下弦の鬼を確認すると、下弦の鬼は障子の向こう側へと何者かに引っ張りこまれているところだった。
鬼の頸を全て斬り人にも影響を及ぼした実弥の技を受けたであろう障子が健在であることに目を見開く。
「障子が……風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!」
実弥が出し続けてくれている技に技を重ねるも、悲しげに眉をひそめた父親の顔を最後に障子は音を立てて閉まって消え、風音の攻撃が届くことはなかった。
「お父さん!待って……これ以上お父さんに人を殺めさせないで!もう……やめてよ。どうして人を苦しめるの……」
障子があった場合へ走りよって手を伸ばしてもないものは掴めず、伸ばした手は空を切り勢い余った体は地面へ倒れ滑った。
「もう鬼の気配は消えた。今はどうにもなんねェんだ……手、擦りむいてんぞ」
地面に倒れたまま身体を震わせる風音の側にしゃがみ声を掛けると、小さな掠れた声が実弥の鼓膜を刺激した。
「……すみません。私、何の力にもなりませんでした。実弥さんの鍛錬の時間を削ってまで私にお稽古つけてもらってたのに……たくさん出てきた鬼すら実弥さんが倒してくれて……」