第5章 試験と最終選別
戦闘音がしたのは初めに聞いた一回のみだった。
あとは静かなもので、本当に音がなったのかと考えるほどである。
「実弥さん……お父さんを見付けたんだよね?早く行かないと、実弥さんが傷付けられたら……合わせる顔なくなる」
「風音!実弥ノトコロニ行クノカ?」
張り裂けそうなほどに痛む胸に気付かないふりをして速度を上げ夜道を走っていると、まるで寄り添うかのように爽籟が隣りに現れ羽を動かしてくれた。
「うん。実弥さんに私のお父さんを殺させるようなことはしたくないの。実弥さんはとても優しい人だから、頸を斬ったら私を想って傷付いてしまう。私の親のことでそんな思いしてほしくないから……私がお父さんの相手をする」
「……分カッタ。案内スルガ、コレダケハ心ニ留メテオイテホシイ。実弥モ俺モ、風音ガ悲シム姿ヲ目ニスルノハ何ヨリ辛イ。悲シイ時ハ頼ッテクレ」
温かく優しい爽籟の言葉に風音の目には涙が滲み、顔が悲しみに歪む。
今爽籟が自分の腕の中にいたら縋って泣いていたかもしれない。
「ありがとう。私は……大丈夫だから。今は頑張ってお父さんをどうにかしてみることだけに集中……する。爽籟君、道案内お願いします!」
涙を堪え走り続ける風音を悲しげに一瞥すると、爽籟は風音の願いを叶えるために空へとふわりと舞い上がり実弥がいる方へと羽を動かした。
それを目で追い走り……数秒後に実弥の後ろ姿と鬼殺隊の剣士が着用している隊服を着た男の鬼の姿を見付ける。
何やら実弥が話しかけているようだが距離が離れているので内容は聞き取れない。
実弥の様子を見る限り怪我をしている雰囲気はなかったのでホッとしたのも束の間、実弥と対峙している鬼の顔が鮮明に瞳に映し出され再び風音を絶望が襲った。
「お父さん……本当に鬼になってたのね。……絶対に実弥さんは傷付けさせない」
足音で風音が来たことに気が付いたのか、実弥は視線だけ僅かに後ろにやって風音の姿を確認した。
そしてその瞳が驚き見張ることとなるのはほんの少し後のこと。
自分の背後か隣りで立ち止まると思っていた少女は速度を緩めず、刀を鞘から抜き出しながら下弦の弐へと立ち向かっていってしまった。
その一瞬後、刀のぶつかり合う甲高い音が実弥の鼓膜を震わせた。