第5章 試験と最終選別
実弥が女性の元に到着した時、既に鬼の姿は見当たらなかった。
そこにいたのは腕に傷を負った女性だけだったので、とりあえず手当をしなくてはと声を掛け腕を見るためにしゃがみ込むと泣き叫ばれてしまった。
手当てしようにも泣き叫ばれ触れることすら拒まれたのでどうしたものかと悩んでいるところに風音が到着した。
確かに肌に多くの傷痕があり一見すると驚くかもしれないが、今まで流石に泣き叫ばれ拒まれたことはなかった。
どんなに疑問に思ったところで女性にとって自分が恐怖の対象ならば離れて様子を伺うしかないと風音が手当てし終えるのを待っていたのに、その風音から発せられた言葉は無情なものだった。
『お父さん』
一瞬何を言っているのかと疑問に思ったが、風音の切羽詰まった声音や絶望に染まる顔で言葉の意味が分かり、今はその鬼を捜索しているところである。
「よりによってアイツの目の前で父ちゃんからの被害者出てくれんなよ……どうする、血鬼術使う鬼すら相手にさせてねェのに、下弦の鬼……しかも父ちゃんだった鬼の相手なんて務まるはずがねェ」
目の前の事実に心を痛めながらも女性の側を離れず、自分に出来ることを必死に考え実弥に鬼を託した少女の顔が頭をよぎる。
「自分の親が鬼になって人を喰ってるなんざ……考えたくもねェし、その場になんて居合わせるなんて以ての外……だよなァ」
その現場をこれ以上見せてたまるかと言わんばかりに実弥は全方向に意識を張り巡らし、鬼が潜んでいる場所を探り……それを見付けた。
「元鬼殺隊剣士、柊木功介ー!テメェのせいで娘が鬼殺隊に入る決心をしちまったんだぞォ!そんな娘がいるって聞いても何とも思わねェのかァ!」
鬼の潜伏している場所へ走りながら叫ぶと、自分と同じような呼吸の技に近い攻撃が飛んできた。
それを日輪刀で弾き返し、少し先で刀を振り切った男の鬼の姿を確認した。
「テメェが柊木功介だなァ?今は名前も覚えてねェかァ?」
実弥の質問に答えず刀を構える鬼の目に刻まれているのは下弦の弐を証明するもの。
手は先ほどの女性のものと思われる血で汚れている。
似ていないでいてくれた方がどれほど気が楽だっただろうか……と思うほどに顔の造りが風音と瓜二つだった。
しかしその表情は狂気の笑みで満たされていた。