第5章 試験と最終選別
同日の夜。
温かさに包まれて気持ち良く眠りについた風音はしっかり睡眠をとり、実弥は若干の寝不足になる事態に陥っていた。
風音が念入りに課題に赴く準備をしている間、しばし休息をとることで寝不足を解消し二人とも体調も万全に整った。
「分かってると思うが、無傷で鬼の頸を斬り続けることがお前に課した課題だ。一体一体相手にすんだァ、それくらい出来ねェと鬼狩りなんて務まらねェぞ」
実弥にもたらされた任務地で改めて課題を聞き、風音は少し震えていた手を握り締めて深呼吸を落として震えを止めた。
現在いるのは山の中で視界は悪いが、鬼が潜んでいそうな場所を見据えて頷く。
「はい。鬼殺隊剣士を務められるよう、課題を突破してみせます。では捜索を開始しますね」
実弥のように自分の血を使って鬼をおびき出すことが出来ないので、風音は実弥が頷き返してくれたことを確認すると薄暗い山の中を走り出した。
(常に全方向に意識を集中。今まで教えてもらったことを忘れず、会敵次第応戦。鬼の弱点は頸のみ、一度で斬れないなら無理をせず何度か交えてから頸を狙う……全集中の呼吸)
鬼と遭遇した時にしなくてはいけないことを反芻させると、体に酸素をくまなく送り臨戦態勢を整える。
「風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ」
実弥より遥かに高い声で技名が発せられた一瞬後、風音と実弥の髪がふわりと舞い、その場から少女の姿が消えた。
相変わらず柔らかな風を技として繰り出した風音の足元には、既に消えつつある鬼の首が転がっている。
「ふぅ……実弥さん、捜索を続けます」
「あぁ」
短い遣り取りを終えて風音が走り出すと実弥もその後に続き、息切れ一つしていない様子を見て小さく笑った。
「そよ風で倒しちまうってどんな技だよ。倒せてんなら問題ねェけど」
笑いと同じ小さな声は内心ドキドキしている風音には届いていない。
(倒せた!初めて自分で!怖かったけど頑張らなきゃ!)
それから明け方まで数体の鬼を倒して、一日目の課題は無事に終わりを迎えた。