第5章 試験と最終選別
課題一日目。
次々と舞い込んでくる任務を実弥が滞りなく完遂し、風音はその度に目と頭に焼き付けて次の日に備えることが出来た。
血鬼術も幾つか見ることが出来たので明日や最終選別では相手取らないとしても、剣士になった時の役に立つことは間違いないだろう。
「実弥さん、今日は本当にありがとうございました。その……一つお願いがあるんですが」
明け方、実弥の屋敷へと帰還した二人はそれぞれ体を風呂で清め、寝る前に居間で少し雑談をしている。
「大したことしてねェよ。で、願いって何だァ?」
つい今しがたまで他愛のない会話をしていたのに、いきなり改まって礼を告げられ願いもあると言う。
しかも何故か願いがあると言った風音は落ち着きなくソワソワしているので、実弥の頭の中は疑問符だらけだ。
そんな中、風音は意を決したように実弥の瞳を見つめ願いを口にした。
「一緒に眠ってもらえませんか?何だか……鬼をたくさん見て気持ちが落ち着かなくて。……あ、無理ならいいんです!すみません、変なワガママ言っちゃって。子供じゃあるまいし……」
目を見開き固まった実弥の心の中が読めず、視線を畳に落として小さく息を付く。
子供みたいなことを言うんじゃなかったと後悔してもどうにもならない。
未だに静けさのみが支配する居間を後にしようと笑顔で実弥に向き直ろうとしたところで、腕が引っ張られ全身が大好きな温かさで包まれた。
「お前なァ……明日から本格的に課題始まるってのに煽ってどうすんだよ。ったく……仕方ねェなァ」
そう呟くと全く重さを感じないというようにふわりと風音を抱き上げ、願いを叶えるために自分の部屋へと足を動かす。
「あ……の、本当にいいの?疲れてるのに私の相手なんて……」
「別に疲れちゃいねェよ。……心配すんなら俺の頭ん中の螺がぶっ飛ばねェことを心配しとけ」
「螺?螺……はい!よく分からないですけど実弥さんにとって大変なことなら飛ばないよう様子を見ておきます!」
元気に返事をして首元に手を回して抱きついていく行為は、実弥の螺を飛ばしにかかっているとしか思えない。