第5章 試験と最終選別
「これで終わっていたなら実弥さんが疲れずにお家に帰れたのでよかったとは思っています。でも……いつも任務に赴いたら長い時間帰ってこないので……こんな時に言っていい言葉ではないですけど、今日は側にいられるからいつもより心穏やかです」
悲しげに笑う風音の自分を見送ったあとのいつもの心境を垣間見た実弥の昂っていた気持ちは鎮まり、強く握ったままだった日輪刀を鞘へと納めた。
「そうかよ……ほら、もう行くぞ。お前のことがいたく気に入りの爽籟も戻ってきてることだしなァ」
実弥が見上げた先を目で追うと、温かく柔らかで優しい衝撃が頭にもたらされた。
「無事ダナ!次ノ任務地デモ俺ガ見張ッテテヤルカラ、心配セズ見学シテイルンダゾ!」
「フフッ、ありがとう爽籟君。実弥さんと爽籟君がいてくれれば何も心配いらないや。よろしくお願いします」
いつもなら何気なく見ていた一人と一羽の遣り取りも、今の実弥にとっては少し胸の中をモヤモヤさせてしまっている。
(爽籟にはタメ口の癖に俺には敬語かよ。何か気にくわねェ)
と思ったところで口に出しては爽籟にドヤ顔をされるだけであるし、何より今は任務中である。
任務中に相応しくない言葉を吐くことが躊躇われた実弥は、せめてもと爽籟を風音の頭から引き離し自分の肩に乗っけた。
「テメェは俺の鎹鴉だろうがァ。いつまでも風音に甘えてんじゃねェぞ。二週間後にはこいつにも鎹鴉がつけられる、今のうちに風音離れしとかねェとなァ」
いきなり風音から引き離されほんの少しの意地悪を言われた爽籟はご機嫌斜めになるも、実弥が言っていることは事実なので肩から飛び立つことはしなかった。
「実弥、ヤキモチカ?風音と仲良クナリタイナラ、モット可愛ガッテヤレバイイノニ」
「言い返してくるじゃねェかァ。テメェに言われる筋合いねェわ」
実弥とその相棒の小競り合いは互いの耳にしか聞こえない小さな声。
会話内容は聞き取れなくとも、こしょこしょと何やら遣り取りをしている一人と一羽の様子が何だか可愛らしく、風音は先を歩いている実弥の後を歩きながら小さく笑いを零した。
「いい関係だなぁ。このまま課題最終日まで穏やかに終わればいいのに」
そう思った時に限って穏やかに終わらないものである。