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涼風の残響【鬼滅の刃】

第5章 試験と最終選別


師範の指示に従う以前に風音には実弥の言う言葉に否という選択肢はそもそもないので、例え厳しい課題であっても首を縦に振るしか脳内で考えられることはない。

「はい。実弥さんの決定に従います。でも実弥さん、私は課題を必ずこなして最終選別に赴きます。赴いて……無事に帰ってきたら実弥さんの継子に……してほしいです」

好き合っているからと言って継子にしてもらえるかは別の話である。
風音が風の呼吸の遣い手と言えど実弥が否と言えば継子にはなれない。

それを分かっている風音が不安げに実弥を見上げると、今日初めて見る穏やかな表情を向けて肩に手を当てた。

「課題達成には前向きなくせに、そんなとこで不安になるのかよ」

優しい笑顔に見入っていると肩に当てられた手に力が掛けられ、背中にはもう一方の腕が回される。
そうしてゆっくりと視界がふわりと回り、実弥と天井が映し出された。

「実弥……さん?」

「前にも言ったが……俺は近しい奴ほど鬼と関わらずいてほしい。その気持ちは今でも変わっちゃいねェ。父ちゃんのことがなければ、俺はお前が泣き叫んで拒んでも鬼殺隊から遠ざけてた。呑気に笑って好きな薬作りだけ……好きなことだけをして生きてほしいと思ってんだ。何でお前はこうも俺の思い通りになってくれねェんだよ」

実弥の悲しげに揺れる瞳は間違いなく自分を映しているが、何となく他の人も映っているように見える。
それが誰なのか……考えなくても思い当たった。

(弟さん……実弥さんが鬼になってしまったお母さんから、それこそ死ぬ思いで助けた弟さん)

一度実弥から弟が一人生き残っていると聞かせてもらって以降、風音は自らその話題に触れないようにしていた。
もちろん話してくれるのであれば聞かせてもらっていたし、やはり人としても師範としても尊敬し慕う実弥のことは知りたいと思う。

でも言わないということは実弥にとってあまり触れられたくない過去なのだと判断し、これからも今までと同じようにするつもりである。

「それはね、こんなにも優しい実弥さんを一人危険にさらしたくないからですよ。私はまだ弱くて心配ばかりかけてしまうけど、実弥さんを危険から遠ざけたいって気持ちでいっぱいです。こんなにも私の心を温かくしてくれる実弥さんには笑っていて欲しい」
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