第5章 試験と最終選別
まさか最終選別の「さ」の言葉すら聞いてなかったと思って居なかったのだろう……店主は笑顔のまま固まった後、くるりと店へと体を向けて笑顔のまま風音の手を引っ張り歩く。
(うーん……あんまり穏やかな内容じゃないような気がする……全部話してくれるって言ってたし、その時に話してくれるつもりだったのかな?)
店主も実弥が話すべきだと思って話さなかったのかしれないと思い直し、風音は大人しく店主に手を引かれて実弥の元へと足を動かした。
着替えたものの特に実弥から何の反応もないまま店主に礼を告げ、来た道を戻り昼頃には屋敷に舞い戻ってきた。
「実弥さん、改めまして袴一式ありがとうございます。それで……この袴はどの場面で使ったらいいのでしょう?お店の人には最終選別でと教えてもらって……最終選別とはいったい」
居間に腰を落ち着けたところで、呉服屋を出てからずっと無言を貫き通していた実弥に問い掛けると、驚いたように目を見開いた。
「あ……言ってなかったなァ。最終選別は鬼殺隊の剣士になったとしてやっていけんのか試すもんだ。狂い咲きしてる藤の花が植えられた山ん中で一週間、生け捕りにされてる鬼と永遠と闘い続ける」
どうやら実弥はてっきり風音に話したものだと思っていたらしい。
内容がなかなか衝撃的であるが事前に知っていたとしても稽古を付けてもらうのは変わらないし、ただ心の整理を長期間でつけるか短期間でつけるかの違いだけである。
気まずそうに頭を掻く実弥の手を両手で握り、風音は実弥にニコリと微笑みかけた。
「その為に袴を用意してくれたんですね。実弥さんにはお世話になってばかりで感謝しかありません。この恩に報いるために一週間頑張ります!ちなみに最終選別はいつですか?」
「恩に報いるもなんも……お前の師範なんだから世話すんの当たり前だろォ。報いてェなら一週間後の選別から生きて戻ってこい」
…… 風音の時間が止まった。
先ほどまでは
短期間で心の整理を……と思っていたのだが、あまりにも短期間すぎて風音は今の心の整理がつかない。
「一週間……一週間ですか。なるほどです、一週間後に最終選別……」