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涼風の残響【鬼滅の刃】

第5章 試験と最終選別


はるか昔に訪れたかな?くらいに曖昧な記憶しかない呉服屋の看板を風音が呆然と眺めていると、笑顔になったわけではないものの実弥が手をこまねいてくれたのでそれに従って来た道を戻り、先に店の中へ足を踏み入れた実弥の後に続いて入った。

風音の目に入ったのは美しい模様が染め入れられた色とりどりの着物。
中には刺繍が施されている物もあり見ていて飽きないが、普段お目にかかれない着物たちは風音に目眩を覚えさせた。

「眩しい……世の中にはこんなに綺麗なものがあるなんて。実弥さん、新しい……着物を……?」

目の前にいると思っていた実弥に向き直るとそこにいたのは実弥ではなく、風音の母親より年上と思われる清潔感のある女性だった。

「お嬢さんが不死川さんの言っていた女の子ね。せっかくだから着て帰ったらどうかしら?」

目に見えるものと耳から聞こえた様々な情報は風音の脳内でうまく処理しきれず一瞬思考を停止させたが、実弥の知り合いには違いないのでどうにか脳を働かせてぺこりと頭を下げた。

「初めまして、柊木風音です。それでその……着て帰るとは?」

日々食いつなぐだけで精一杯な生活を村で行い、実弥の屋敷に身を置かせて貰うようになってからは稽古の日々で自分で稼いで手元にある金は少ない。
つまるところこんな高そうな着物を置いている店で着物を手に出来る金はないので、どうしたものかと今度こそ実弥を伺う。

「何もお前に買わそうなんて思ってねェよ。明日から何回か必要なもん揃えてやったから着替えてこい」

「揃えて?!明日から必要って……着物ですか?!」

何が何やら分からない風音は先ほどの女性、この呉服屋の店主に手を引っ張られずりずり店の奥へと引きずられ、何も答えない実弥に見送られながら姿を消していった。

「……早ェなァ。まァ常中身に付けてた奴だからこんなもんかァ?にしても相変わらず居心地悪ィ……」

華やかな着物に囲まれた実弥は言葉通り居心地悪そうに店の隅で身を縮こませた。
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