第5章 試験と最終選別
目的地を聞かされぬまま街を歩く道すがら、実弥に特に変わった様子はなく他愛のない……と言うより風音が一方的に言葉で実弥にじゃれつきながら楽しく?時を過ごしていた。
「それでね……あ、実弥さん。未来を望む方向に見るの難しかったんです。実弥さんみたいに臨機応変に対応してくださる人なら、何度も繰り返して未来を見なくて済むんですけど」
突然の話題転換に戸惑う様子もなく、実弥は風音の言葉通り臨機応変な対応を返す。
「だろうと思ってたわ……そもそも未来を変えるなんざ善し悪し抜きにして他人の人生に関与するってことだろォ。だから使い所が難しい……お前の命にも関わんだから当分は使うな」
実弥の言葉に風音の表情が強ばった。
誰かが傷付き散っていく未来を変えたいと力を使っていたが、使いようによっては幾らでも悪用出来る能力だと今更ながら気が付いた。
今のところはあの時の子供……勇を除けば、実弥の未来しか見ていない。
それは実弥の判断による指示に従ってしているのであって、そこまで考えて自らそうしているわけではないのだ。
「そうですよね。お母さんがあんまり能力を使わなかったのは、そういった事も考慮しての判断だったのだと、実弥さんに言ってもらって気付きました。それに……あんまり好き勝手に使ってると色々ご迷惑を掛けてしまいそう。本当に……使いどころが難しいです」
実弥からすれば自分に迷惑が掛かる云々の前に、万が一先を見る能力が人々に知れ渡った場合の方が心配である。
どのような力も使いようによっては善にも悪にもなる。
隣りでウンウン唸っている風音は自分の能力がどれほどのものか理解していないながらも、自ら悪用するようなことはしない。
例え悪人に脅されたとしても加担するなど有り得ないが、それならば従うまで……と風音に危害を加える者がいないとも限らないのだ。
「はァ……今度しっかり!みっちり!テメェに危機感ってのを頭に叩き込んでやるよ。おい、どこ行くんだァ?用があんのはここだ、戻ってこい」
「危機感は十分もってるはずですけど……ん?呉服屋さん?」
実弥と小芭内曰く危機感が欠如している風音が辿り着いたのは、たくさんの着物が展示され売られている呉服屋だった。