第5章 試験と最終選別
まだ始めて間もないとはいえ、元々毎日行っている基礎鍛錬を終わらせてから始めたので、また初めからなど出来ることなら回避したいものである。
サボるわけないと信用して貰えているからと言って口元を緩めなければよかったと……心の中で後悔中だ。
「余裕ではなくてですね……そうではなく実弥さんの言葉が……嬉しくて。あの、本当に腕とか手首が偉いことなって……あ、でも実弥さんが触れててくれると思えば苦ではなくなりました!」
「お前なァ……扱き甲斐全くなくなっちまったじゃねェか。未だにお前の思考回路どうなってんのか俺にはさっぱりだわ……もういい、出掛けんぞ。風音も準備してこい」
重みは変わらない。
未だに背中には実弥の肘があり、その更に上には頭が置かれたまま。
しかしそんな事など頭から抹消された風音には全く気にならない。
「いいんですか?嬉しい!では続きは帰ってからしますね!すぐに……実弥さん?あの……腕の温かさは嬉しいですが……体調、良くないですか?」
早く用意をして来いと言ったのに腕が退かされる気配がなく、基本的にテキパキ行動する実弥にしては珍しい。
「悪いわけねェだろ。……帰ったら話あるから頭ん中で纏めてただけだ。外に用ってのもそれ関係なんでなァ。準備出来たら居間に来い」
何の話があるのか聞こうにも実弥はさっさと風音の背中から肘を退かして道場から出ていってしまったので聞けずに終わった。
「実弥さんが頭の中で纏めなきゃいけない話……しかもお出掛けすることと関係あるって全く想像出来ないな。お父さん……の事じゃないだろうし」
張り詰めていたようなそうでなかったような……不思議な雰囲気を出していた実弥に首を傾げたものの、後で話してくれるならば待つのみだと切り替え、風音は既に姿の見えない実弥の後を追って道場を出た。