第5章 試験と最終選別
「実弥さん……終わりました。基礎鍛錬終わったので、少し休憩を」
「甘えんなァ。もっかい一から始めろ。それが終わったら休憩にしてやる」
あれから更に数ヶ月が過ぎ、風音は日に日に厳しさの増していく稽古に四苦八苦しながら、今もこうして汗水流して必死にこなしている。
技も実弥が風音用にと用意してくれた日輪刀に限りなく近い刀で一通り出すことが出来るようになっていた。
しかし剣士ならば呼吸の技を出すなど必要最低限のことなので、それを更に研磨し鬼に負けない力量を付けるためにこうして扱かれているのだ。
「う……はい」
「お前は常中使えんだからそんくらい余裕だろうが。俺はちょっと用がある。直ぐに戻るが……俺が目ェ光らせてねェからってサボんなよ。……サボるわけねェか」
実弥自身弟子をとったことがなかったので柱の元で研鑽する弟子の様子は詳しく分からないが、聞くところによると柱の元に剣士が教えを乞うために門を叩きそれを招き入れたとしても、短期間で去っていくらしい。
何でも厳し過ぎる稽古に音を上げて、道半ばにも関わらず諦めてしまうのだとか。
柱は後輩剣士を育てる責務があるので、門を叩かれれば受け入れることが多い。
その受け入れた剣士のことを継子と言い、柱に欠員が出た場合の人材とすべく育てるのだが……今でも欠員があるという事はそういう事だ。
目の前で心做しか表情を緩め……いや、何故かニヤけながら基礎鍛錬に勤しむ少女を見ているとその現実が嘘のように思えてくる。
(コイツ……考えてること顔に出過ぎだろ。まぁ、泣き言喚かれるより腹立たねェし、やる事は勝手にやるから楽だけどよォ。ニヤけながらされっと気ぃ抜けるっつぅか何つぅか……)
出掛けなくてはいけない時刻が近付いているものの、こうも目の前でニヤけながら鍛錬に励まれると構いたくなるのは仕方ない。
実弥は腕立てに勤しむ風音の背中に肘をつき、更にその上に頭を乗せて重さを増した。
「実弥さん?!それは……大変です!師範に向かって言いたくないですけど重いです!腕が!悲鳴上げてますよ!」
「そうかィ。ちなみに体勢崩したら始めっからだァ。ニヤける余裕あんならこれくらい屁でもねェだろ。おい、止まってんぞ。さっさと続けろよ」