第4章 お稽古と呼吸の技
いらない事を口走り過ぎたせいで明日から稽古が厳しくなることが決定された風音は、実弥が出してくれる九つある風の呼吸の技を壱から順番に見せてもらっている。
今の自分では到底出せないほどの威力でありながら、あまりの正確性に目眩を起こすどころか思わず見入ってしまうほどである。
「風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐」
三つまでただただだ実弥の体捌きや技の威力に目を奪われているだけだった。
自分も早く身につけて、力になれたらいいのに……
と思っていたのに、肆ノ型を実弥が放ったと同時に風音の頭の中で体の動きや技を出した時の感覚が巡った。
「実弥さん、私……さっきの技、記憶にあります」
張り上げるでもない普通の声量であっても修練場は街から離れていて喧騒などいっさい響いてこない場所なので、技を出し終え一呼吸ついた実弥の耳にしっかり届いていた。
「この技かァ?」
「たぶん……そうだと思います。人を守ることも出来る技なんだよって教えてもらって」
砂粒のように細かくなった風を舞い上がらせ、無数の斬撃を放つ技。
風の呼吸は広範囲に斬撃を放つ技が多く、使う者も呼吸と同じように荒く人によっては怖がられることが多い。
中身は優しくとも実弥のように飾らない物言いをする者が多い中で、実弥の前に駆け寄った風音は異質かもしれない。
暴走することはあっても人に対して攻撃的な言葉は発しないし、実弥や柱たちのように打ち解けた者たちの前では無邪気に笑っているので刺々しさなど皆無に等しい。
本当に目の前の少女が風の呼吸の技に適性があるのか?と疑問を持ちつつも、わざわざ師範である実弥に対して技を出せるのだと見栄を張る意味などないので、とりあえずどうなるのか確認することにした。
「出せなくても構わねェ。いっぺん試してみろ、見ててやるから」
「はい!よろしくお願いします!」
日輪刀みたいだと喜んで腰に差した木刀を抜き取り、実弥がとっていた構え、記憶に残っている構えを反芻させて構える。
「ふぅ……風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!」
実弥の威力に及ばない。
正確性も危うい。
しかし実弥の風の呼吸と根本的に違うように見える柔らかくふわりと舞い上がった風の砂塵は、的を確実に切り裂いていた。