第4章 お稽古と呼吸の技
「おぉ……マジかよ。出せた……てぇより、よくそよ風みたいな勢いで的切ったなァ。どうなってんだァ?」
実弥よりも知識が乏しい風音には分からない。
ふわふわと舞い上がって的を切り裂くなど、風音としては見た目からして高威力だと分かる実弥の技より得体が知れなくて恐怖するので、実弥と同じく知りたい気持ちはあるのだが……
「どうしてでしょう?昔に出せた時はどんなのだったか覚えてないですし……威力を上げれば実弥さんに近付かせることは出来ませんか?」
「どうだかなァ。ただ威力が弱ェだけか今見ただけだと分かんねェし」
分からない、解決しないことが日に日に増えてしまう。
かと言ってそれを実弥が煩わしいと思っている様子もないので、こっそり胸の中でホッと息をついた。
「ではやるだけやってみます!あの、よければ残りの技も見せてもらえませんか?どんな技を覚えるのか見てみたいですし、技を出している実弥さんを見るのが好きになっちゃったんです」
顔の傷や目付き、言葉遣いで怖がられることは度々あった実弥だが、こうも向上心と共に慕っているのだと分かる表情で技を見せて欲しいと願われたことのあまりなかった実弥は、照れくさそうに頭を掻いて風音と距離をとり構えをとった。
「……調子狂うからあんま変なこと言うんじゃねェ。はァ、しっかり見とけよォ……壱から玖の型、完璧に出せるようになるまで扱き倒すからなァ!」
「はい!喜ばしいお言葉です!精一杯努力するのでよろしくお願いします!」
……思っていた反応と違ったのか、実弥は肩をガクリと落とした。
「嬉しいのかよ……こっちとしては多少引き攣ってくれた方が扱き甲斐あるんだがなァ」
「厳しくても側で鍛えてもらえることが嬉しいので。それだけでどんなに私が幸せか……実弥さんに伝わればいいなって思います。私、実弥さんと出会えてすごく幸せなんですよ」
突拍子もなく始まる風音の脳幹を揺らすほどの実弥への言葉の攻撃は高威力だったようで、実弥の手から木刀が地面へと甲高い音を立てて転がり落ちた。
「クソがァ……帰ったら覚えとけよ」
小さな小さな呟きは風音には届かなかった。