第4章 お稽古と呼吸の技
「お帰りなさい、実弥さん。お先に失礼し……」
どうにか保っていた気力は実弥を目にしたことで底を尽き、畳に倒れ込む寸前で実弥に支えられることによって事なきを得る。
「……寝ちまいやがった」
既視感を覚える言葉に杏寿郎と天元が笑いを零して経緯を説明した後、風音は部屋へと運ばれ体を休めることとなった。
翌朝、風音は存外すっきりと目を覚ますことが出来た。
もちろん父親のことを考えると体の中に鉛が入ったように重くなるが、重くなって立ち尽くしても現実が夢となるなど有り得ないので、それは追々考えることにしたのだ。
「昨日はたくさん失敗したから、まずは台所を片して皆さんの朝餉を作らなきゃ。そう言えば杏寿郎さんはたくさん食べてたように思うけど、食材足りるかな?」
小さな微笑ましい不安を抱きながら居間の前を通り過ぎ……一度通り過ぎて再び舞い戻った。
「あらま、何だか居間が荒れてる!瓶がたくさん……お酒とか飲んで寝ちゃった?」
なんと実弥、杏寿郎、天元が布団も被らず居間で気持ち良さそうに寝ていたのだ。
三人の周りには酒や飲み物が入っていたと思われる空き瓶、ツマミを乗せていたであろう皿が数枚……
鬼殺隊柱の中でも背の高い部類に入る三人を風音が運べるわけもなく、起こすか悩んだ末……あまりに気持ちよさそうに眠っているので、掛け布団を運んできて被せてやり部屋を片付け、ようやく朝餉の準備に取り掛かった。
「あれ?お酒呑んでなかったんですか?」
「呑んでねぇわ……あの中で酒飲んでたの宇髄だけだっつの。まぁ……だがあれだ、布団と朝餉ありがとよ」
程なくして目を覚ました三人は目の前の状況をうまく飲み込めずポカンとしていたが、頭が働き出すと唐突に何があったのかを思い出して楽しげに会話を始め、風音に布団と片づけ、朝餉の礼を口にし二人は自分たちの家へと帰って行った。
そして今は道場内にて実弥と共に柔軟を行っているところだ。
「皆さんしっかりしてるので、てっきり成人しているものとばかり思ってました。楽しい時間を過ごせたのならば何よりです!私こそ昨晩はありがとうございます。何も私だけが特別ではないので、これから頑張ってみます」