第4章 お稽古と呼吸の技
「なァ……お前には話してなかったが、俺の母ちゃんも鬼になっちまったんだ。弟一人残して……他の兄弟全員母ちゃんに殺されちまった」
普段の実弥からは想像出来ない壮絶な過去に風音は思わず顔を上げて実弥の瞳を見つめた。
自分が映る瞳は今までで一番悲しい色をたたえているように見える。
「実弥さんのお母さんが……?そんな……」
その悲しい色が堪らなく風音の胸を締め付け、無意識に実弥の頬に両手を当てていた。
「その母ちゃんを……俺が殺した。切り付け動けなくなったところに太陽が……母ちゃんを焼き切っちまったんだ。どうしてだろうなァ……母ちゃんも明るくて優しい人だった。幸せになるべき人が、何で鬼にされなきゃなんねェんだろうな」
「すみません……私ばっかり……実弥さんも悲しいのに……私……」
変わらず涙をぽろぽろと零す風音を強く抱きしめ直すと、実弥は自分の部屋に移動して脚の上に座らせる。
そうして涙で濡れた瞳で見つめてくる風音の唇に自身の唇を重ね合わせた。
突然の口付けに驚き見開いていた目は落ち着きを取り戻したようにゆっくりと閉じられ、ようやく体の緊張も解き実弥に身を委ね……背に腕を遠慮気味に回して来た。
(やべェ……不謹慎って分かってっけど……可愛いって思っちまう)
「ん……」
(やめろォ!無意識に煽ってくんなァ!)
苦しげな風音の声が危うく頭の螺をぶっ飛ばしかけたところで、色々危険だと判断した実弥は唇を離した。
「……落ち着いたかよ?」
「ん……はい。でも何だか頭の中がふわふわしてます」
言葉通り実弥を見つめる風音の表情はふわふわしており、完全に力が抜けきっている。
その表情に安堵した実弥は理性を保たせる意味も込めて深呼吸を落とし、ほんの少し風音の体に体重を預けた。
「お前は他の奴らの心配なんてする必要ねェよ。今まで通り過ごせばいい。……俺は今日任務あるが……俺が帰るまでアイツらといい子で留守番出来んなァ?」
「心配は……すると思いますけど、実弥さんが帰るまでお留守番してます。もう泣きません、だから先を見せて下さい」
精神的に弱っている少女を叱りつけることが実弥には出来ず、短時間だけ先を見せて安心させてやった。